暗から明へ | ナノ


「なまえ、あんた、えーっと、なんか……雰囲気変わった?」
「そ、そう……見える?」
「ちょっと、こう、ふっくらしたっていうか」
「実は最近、ジーンズがキツめです」

学校の帰り、友人と寄った喫茶店で特大のパフェを突ついていた手を止める、最近動くのが億劫だし何となく体が重たく感じるんだよなあって思ってた。

でも本当はわかってたんだ、よく食べよく寝て、よく食べエンドレス。食べ過ぎだって思ってたんだけど気付かないフリ、怖くて体重計に乗れなかったんだよね、知らんぷり、その結果がこれだよ。

太った。

「はっはーん、いわゆる幸せ太りだなー?」
「ち、違っ!ほら、なんか無性に食べたくなる時ってあるじゃん!それだよそれ!」
「うっそだー、だってついこの間まで暗ーい顔してたけど、今じゃ見違えるくらい元気になったし」
「そ、そうかなあ」
「間違いなくこれは恋だと断言しようじゃないか!」

断言されて、それが大体当たってるから何も言い返せない、そうです友人の言う通り原因は幸せ太り。

驚いたことに張遼さんとばったり出会いました、あの時代から来たというわけではなく、張遼さんが生まれ変わって現代に。

とても信じられない出来事が起きたわけです!

聞けば最近まで前世の記憶はなかったらしい、自分が自分でも意図しない奇妙な行動を繰り返しているうちに、わたしを見つけた瞬間思い出したんだとか。

そこでハッ!となってぶわーっと思い出して、サッと行動に出たそうだ。

わたしは説明するということが大の苦手である。

「新しい恋か?それとも前に聞いた片想いか?ほれほれ話してみなさいこのやろ!」
「い、今?」
「話しなさい」
「うっ」

スプーンを突きつけられ有無を言わさぬその迫力に押し負け、口元が緩む。思い出したように慌てて残りのパフェを詰め込んでよく味わわないうちに嚥下、とてもじゃないが味わっている余裕などない。

何をどう説明したらいいんだ、前世のこと、わたしが過去へとタイムスリップしたこと、更にそこで死にかけたなんて絶対に言えるわけがないし、張遼さんからも固く口止めされている。

「ええい、勿体ぶるな!」
「ひえっ」

鼻先すれすれまでスプーンを突き付ける友人に思わず情けない声が出た、仕方ない、この前の取ってつけたような話の続きをすればいいか、どんな設定にしたんだっけ?

日雇いバイト先の知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの上司の企業の提携先の現場監督、だったよね。それで紆余曲折あって、仲良くなれたけど急な海外転勤で。

「えっと、その人が海外から戻ってくることになって戻ってきてて」
「なんで?」
「わ、わたしも理由はまだ聞いてなくて」
「で?」
「ええと、たまたま学校帰りに相手がわたしを見付けてくれて」

しどろもどろになっているにも関わらず、友人はにやにやと笑っている。わたしが照れ臭くてしどろもどろになっていると思っているようだ。

本当はしゃべりながら勝手に設定を作って、その場しのぎの脚色加えてることが苦労でしどろもどろなんだけどね。

「海外ってさ、どこに行ってたの?そういえばなまえの日雇いバイトって何だったっけ?」
「え……」

友人は確実にとても痛いところを突く、悪意があるわけでも意地悪をしてるわけでもなく純粋な興味から。

これほどタチの悪いものはない、頭が真っ白になって言葉に詰まった。これ以上作りきれない、友達の視線が容赦なく食い込んで空気が痛い。

どうしようどうしよう!

何も思い付かなくて、しばらく黙り込んでいたら友人がわたしから視線を上げてあさっての方を見ている、視線の先を追えば見知った顔。

「ちょ、張遼さ……」
「なまえあんたもしや、この方が!」
「なまえのご友人かな?すまないがそろそろなまえをもらっていっても?」
「あらやだ、気が利かなくてごめんなさい、どうぞどうぞ!」

人の良さそうな笑みを浮かべた張遼さん、ナイスタイミング!助かった、それにしてもそんな顔初めて見ましたよ!友人も、あらやだなんて近所のおばさんみたいなその手の動きやめてよね!

「じゃ、あたしも帰るわ!」
「えっ、ちょ」

お幸せに〜!なんて余計な一言、あの様子だと明日は学校で質問攻めだ、きっとみんなに言いふらすに違いない、どこでどうやってどんな風に今の状態になったのか、事細かに詳細を聞かれるだろう。考えただけで恐ろしい。

「どうやら策を講じねばならないようだ」
「一緒に設定考えてくれます?」
「考えてやらないこともない」

張遼さんは察してくれたらしい、わたしが体験したことは口が避けても絶対に言えない。

そう言えば最近気付いたんだけど張遼さん、とっても柔らかく笑うようになったなあって。なんだか知らない人みたい、そうぽつり零せば困ったように笑われた。

その苦笑とか。

「生まれ変わってしまったのだから無理もない、育った環境がまるで違うのだからな」
「でも見た目は髪型が違うくらいで、全然変わらないみたいですけど」
「それはそれでありがたかった、姿が全くの別人だったらなまえは私だと気付かなかっただろうし、私が私だとどれほど説明しようと、きっと」

張遼さんは途中で言葉を切った、これ以上は言いたくないという雰囲気が感じ取れた、もしものことは考えたくもない。

例え張遼さんが全然違う容姿で現れていたとしても、どうにかして巡り会えると信じてる、だって生まれ変わって記憶がなくなってても無意識のうちにわたしを探しててくれたんだから。

もう最悪の場合を考えたりするのはやめよう、今が幸せならそれでいいや。

「なまえ」
「はい?」
「帰ろう、家に少し寄っていくといい」

現世での張遼さんの知らない部分はこれから知っていけばいい、前世の張遼さんにだってまだまだ知らない謎な部分はたくさんあった。

目の前のすぐ近くに、そばに、好きな時に触れることのできる距離に彼が居る。

嬉しすぎて目頭が痛いほど熱くなった。


20130416
20131215修正

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