暗から明へ | ナノ


必死だった。

まだ離れたくない、出逢いも突然だったけど別れも突然だなんていやだ、わたしは本来ここに居るべき存在じゃない、それでもこんな別れ方はあんまりだ。

張遼さんに縋り付く、しっかり掴んだはずの腕や服の感触も次第に薄れていく、自分に触れてみてもほとんど感触がなかった。いやだ、怖い。

「っ!」

歪む視界、全部がぼやける、涙が邪魔で仕方がない、張遼さんの名前を呼びたいのに嗚咽もわたしの邪魔をする。言葉にならない音だけが喉から飛び出すだけで、発声機能が仕事をしてくれない。

いつも以上に瞬きを繰り返せば涙ぼたぼた床に落ちた、いくらかマシになった視界の先には今までに見たことない表情の張遼さんが居る。

手に力を込めればそれに反応するように張遼さんが僅かに動く、のびてきた無骨な手が目元に触れた、気付けば張遼さんはわたしの腹部を凝視している。つられて下を見ればほとんど消えかかってるお腹。

この前槍で刺されたところを中心に侵食されてるような感じだ。

「なまえ……」
「な、あ……っ!」

半分以上消えかかってる。

わたしはこれからどうなるんだろう、死ぬのかな、それともまた元居た場所に戻るのかな、もう何ヶ月もこっちに居たからきっと学校も騒ぎになってるだろうし、みんなが心配してる。

警察沙汰かな、もし戻ったらなんて言えばいいんだろう……正直な話をしたら絶対頭がおかしくなっちゃったと思われる、誰も信じてくれないだろうなあ。

でもそれより、まだ、帰りたくない。

もちろん死にたくもない。

「ちょ、りょ……さ!」

辛うじて搾り出せた声、握りしめた張遼さんの袖口がくしゃくしゃになる、いつもなら怒るけど全然そんな雰囲気にはならなかった。目元に触れていた手が頬に滑ってすぐに目一杯抱きしめられた。

まだほんの少しだけ温かい体温を感じることができた、わたしも必死で離れまいとしがみつく、体中の水分を全部涙に使ってるような気がした。

次第に頭もぼんやりしてきて本当に全部が薄れてく、手に力が入らない、それに気付いてか張遼さんがカバーするように更に強く抱きしめる。離れたくなくて悲しくて悔しいはずなのに、それよりも張遼さんがしっかり抱きしめてくれてることの嬉しさが何よりも勝って頬が緩む。

ああもうダメだなあ……って思った矢先に視界いっぱいの張遼さんが映る、最期くらい笑っとけばなんとかなる気がした。

「なまえ、行くな」

ほんといやだなあ、もう。

最後の最後でそんなの反則です、頼む、なんて言われてももうわたしにはどうしようもないんですってば。ぼやける全部を振り払って悪あがき、もっと一緒に居たかったです、そう言葉にして唇を寄せた。

ちゃんと触れられたかどうかはわからない、確認する間もなくホワイトアウト、何も見えない何も感じなかったから。

20120630
20131215修正

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