暗から明へ | ナノ


張遼さん達が緊急軍議をしている間、一人ぽつねんと庭園で池を眺めてた、一番最初に落ちた池、あの時も本当に死ぬかと思ったし、つい最近も死んだかと思った。

思い返せば、2回目の時は苦しい痛いつらいが全部混ざって押し寄せてきたような感覚、一瞬のようでとてつもなく長い時間だったような気もした。

冷たくて尖ったものがお腹の下の方で深々と突き刺さる、体中の血液を全部持っていかれるんじゃないかと思うほど血の気が引いて、完全に意識が途切れる前に張遼さんにひと言言ってやった。

びっくりした顔からすぐに焦った顔、嫌な顔じゃないなら上出来、もうこのまま死ぬんだろうな……そう考えたらつらいなんてものじゃなかった。

今死んだら二度と張遼さんに会えなくなる、一度でいいから笑った顔を見せてもらいたかった、前から考えてた死んだ方がマシかもしれないっていう思いはどこかへすっ飛んでった。

やっぱりまだ、死にたくないな。

刺された場所で痛みが激しく自己主張を始める、生きてたい、もう少しだけいろんな張遼さんを見てみたいし一緒に居たい、必死で生にしがみついてるつもりでも死がそれ以上の強さで引き寄せようとする。

もうだめだなあ、と諦めかけた時に遠くで張遼さんがわたしの名前を叫んでくれた、死にかけててもそれだけで嬉しくて、必死な張遼さんがなんだかおかしくて(こんなこと言ったら怒られちゃうよね)少し笑えた。

……でもね。

(あ……あ、れ?)

意識が暗転して、それから気が付けばちょっと見たことあるような壁と天井、苦しくも痛くもつらくもないからてっきり死んで天に召されたんだとばかり。

ここは天国でも地獄でも、もちろんあの世でもない、間違いなく魏の城内のどこか。

あんまり寝心地のよくないベッドっぽいところに寝かされていたみたい、徐々に感覚がはっきりし始めてくる、勢いよく起き上がってもなんともない、ちょっと肌寒いけど。

「わたし、生きて……」

込み上げてくる歓喜、わたしは生きていたぞ!と叫び出しかけて寝心地のよくないベッドの脇に初老の男の人が居たことに気付く。

全然知らない人だけど察するに多分お医者さんか何かの類い、それからわたし自身、半分裸ってことにも気付いた、なんかスースーすると思ったら、なまえさんてば上半身裸族になっていましたよ。

「ぎゃあああ!」

わたしもびっくりしたけど男の人もびっくりしたみたい、初老とはいえ男の人だもん上半身だけでも裸を見られたら恥ずかしい、焦って慌てて両腕で隠しながら条件反射で叫んだ。

「こ、これは失礼……致しました!わ、私は報告に行きますゆえ」
「い、い、いえ!」

縮こまりながらもそもそと布団の中に戻り隠れる、そわそわしていたらお医者さんが出ていったのと入れ代わりに物凄い形相をした張遼さんが入ってきて、変なものでも見るかのような眼差しを向けてきた。

馬鹿な、ありえぬ……!一人で呟きながら歩み寄って布団にすっぽり埋まったわたしをしばらく観察した後、容赦なく布団を引っぺがしてくださった。

ちょっと待ってわたし今、上に何も着てない!

「ぎゃあああ!?」
「そんなはずはない!確かになまえは腹部を貫かれていた、死んでもおかしくはなかった!」
「いや、ちょ、張遼さ!や、やめ……!わたし生きてちゃだめだったんですか!?」
「確かに、この辺りを……」
「で、ですから張遼さん無駄に脇腹突くのやめてくださ……!」

上半身を必死で隠そうとしても張遼さんがそれを制して頻りに脇腹をまさぐる、まさぐるって言うと語弊が生まれるかもしれないが、別に変な意味ではない、張遼さんが驚くのも無理はないし、わたし自身も信じられないくらいなのだから。

刺された傷痕は残っているけど、傷自体は完全に塞がっている、そんなことは現代でもありえない、刺された痛みは確かにあった、でも治ってる。

納得がいかないらしい張遼さんはわたしを頭から爪先まで見つめ続けてる、張遼さんと一緒にいて居心地悪いこの上ないのは今に始まったことじゃないけど今回ばかりはわけが違う。あられもない恥ずかしい姿でいるわけだから。

「あなたらしくありませんよ張遼殿、なまえは仮にも女性、嫁入り前の女性の裸体を探り回すのは美しくありません!」
「ちょ、張コウさん!?」

突如シュタッと軽やかに乱入してくれたのは張コウさん、相変わらずの軽やかステップでわたしの肩に衣服を掛けてくれた、美しいとか美しくないの問題でもないと思うんですけど……それよりも仮にもってどういう意味ですか、仮にもって。

それでも全然無反応な張遼さんは依然としてわたしを見たまま動かない、すると何を思ったのか張コウさんの制止も気に止めず、がばりとわたしを持ち上げた、張遼さんの眉間のシワが増えてすぐに降ろされた。

ばくばく暴れ始めた心臓。

「……何はともあれ、生きていてよかった」

張遼さんはそれだけ言って部屋を出て行った、心臓痛い、壊れそう。心配してくれたんだ、ちょっとは必要としてくれたんだ、居なくなればいいとは思ってなかったんだ。嬉しくてそのことばっかり考えた、すでに張コウさんも眼中外。

そんなことがあってから、わたしは自重を捨てて張遼さんにべったり、暇があればずっとくっついてた。


20120526
20131215修正

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