暗から明へ | ナノ


張遼さんが戦に出たことを知って少し経ってから曹操さんに呼ばれた、話しておきたいことがある、そう言われて何となく今回の戦のことだと思った。

何故だか知らないけどわたし、余所の国では天巫女とか呼ばれちゃってるんだって、不思議な力持ってるとか、まさかそんなのあるわけないのにね。

例え問題があってもないとしてもひとまずそれは置いといて、最も一番懸念されるべき問題があるそうだ、余所の国には秘密にしておいたわたしの存在が、広まりつつある。

秘密が洩れたってことはスパイがここに居たってことらしくて、更に悪いことにスパイは見つかってないから、逃げられた可能性があるかもしれないって。

そうなるとわたしが誘拐もしくは殺される危険性が出てくる、曹操さんの近くに居た者として、もしかしたら拷問とかされちゃって、耐え兼ねて国を危険に晒してしまうようなことをしゃべってしまうかもしれない。

この国の秘密なんか何一つ知らないけど曹操さんは多分それを心配してる。

わたしに不思議な力なんかないって信じたいだけで、もしも本当にそんな力があったとして既にわたしがいろんな秘密を掴んでいるとしたら……。多分そんな思いが捨て切れない。

だってわたし、自分の身元を証明出来るものが何もないし、例え学生証とかパスポートを持ってたとしてもこの過去すぎる過去の時代じゃ何の役にも立たない、むしろ余計な警戒心を与えるだけだ。

「だとしたらわたしを殺してみたら白黒はっきりすると思います」
「落ち着くのだなまえ、わしはおぬしを殺したりはせん」
「でも曹操さん、自分で言うのも何ですけどわたしは怪しいんです、だってこの時代の人間じゃないって言うんですよ?わたしが曹操さんだったら一番最初に片付けておくと思います」
「まるで死にたがりのような言い草だな」
「そうすべきだったとどこかで思ったはずです」
「……あえて言うならば、そうすべきだったかもしれぬ、だ」

自分らしくなかった、こんなこと言うつもりじゃなかったのに、死にたがりなんかじゃないけれど、ここで死んだらもしかしたら元の世界に帰れるかもしれないと思った。

でももしそうじゃなかったら?成功と失敗の比率が、まるで見えない賭けが出来るほどのチャレンジャーでもない。

もどかしい、口だけでもこんな風に言ってなければやっていられなくなってる、知らない人と知らない土地で身ひとつしかない自分をどうやって受け入れてもらう?

ましてや空から降ってきて、こっちの人にしたらおかしな言葉……横文字系の言葉を口にする。

わたしが無害だと誰が信じてくれる?

優しくても親切でも、わたしがどれだけ無防備でもみんな絶対わたしを信じきれない部分が出てくる、時代も時代だから仕方がないことくらい、しばらくここで生活すれば誰だって嫌でもわかる。信じたいけど万が一を考えたらどうしようもない。

多分わたしはイライラしてるんだ、勝手に人を超人扱いしてそれのせいでいさかいが起きて、わたしは散々いびられてきたくせに張遼さんが気になって気になって……つまり好きかもしれなくて、肝心の張遼さんは戦に行っちゃって居ないし。

曹操さんはこの戦を早く片付けたいって言ってるわけだから、手っ取り早く片付けるにはわたしを切ってしまえばいい。

なまえなんて言う奴の存在はなかったことにできるし、戦も早く片付いてわたしの存在が脅威だったかどうかもわかる、都合よくわたしが元の時代に帰れたら一石多鳥、いいこと尽くしだ。

「どうしてですか」
「なまえを片付けておかずにいたことか?それとも片付けずにいることか?」
「全部です」

自分でも驚くくらい決然としてた気がする、冷静でいられるはずがないのに、殺してくださいって何度も言ってるようなものなのに。さっきまで自分のことは、脳天気で阿呆な性格かもしれないと思い込んでた、図太い性格のはずなんだけど限界があったらしい。

「なまえを切り捨てぬ理由は目の前にある」
「目の、前?」
「そうだ、わしの目の前に居るなまえが、死にたくないと思っているからだ」

曹操さんは予想以上にわたしのことをよく見てる、彼の言う通り、死にたくない。でも現状も現状で結構つらい、今回の戦は原因がわたしだってことが何よりも。

(不穏、灰色、見えない不安)


20111124
20131213修正

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