暗から明へ | ナノ


後半、少しずつ距離が縮み始めたくらいの時期。


この間、馬に乗ってみたいと張遼さんにおねだりしてみた。

当然の如く断られたのでしつこく乗りたいアピールを繰り返したことで、張遼さんの諦めを誘い、ついにようやく乗り方を教えてもらえることになった。

「え……」
「どうした、忙しい時間を割いているのだからさっさと始めるぞ」

教えてくれるって決まった時は本当に嬉しかったんですけど、今は全然嬉しくないんですよ、何故かってアイツがいる、目の前にわたしのことを噛み砕こうとしやがった天敵、例の性悪馬がそこにいる!超睨まれてる!

もしかしなくてもこいつで乗る練習とか言いませんよね張遼さん!性悪には張遼さんが乗ってわたしは別馬で……ってことですよねえ!?

「まずは手綱を持ち、馬を率いてみよ」

うわあ……うわあ!

あの性悪馬すっごいこっちガン見してるよやばいよ怖い!近付こうとする素振りを見せただけで蹄をガガッと鳴らされるこの状況を見て、張遼さんは何故呑気にさあ早く手綱を引けと言えるのか!

「大丈夫だ、以前のことはすまないと思っている、もうそのようなことはさせぬ」
「ほ、ほんとですか?嘘つきませんか?こいつわたしのことものすごく睨んでますけど」
「気のせいだ、ほら手綱を」

ひたすら大丈夫だと豪語する張遼さんを信じてそっと差し出されている手綱に手を伸ばす、指先が手綱に触れた瞬間待ってましたとばかりにあの性悪馬はやらかしてくれた。これはやばい。

ぶわりと前足を高々振り上げて威嚇。

「あ」

張遼さんの手から落ちた手綱は今現在フリーである、わたしは生命の危機を感じ取りとっさに逃げた。そしたらすぐ後ろから聞こえてくる蹄の音、軽快に地面を蹴るその姿は遠くから見ればさぞ美しいのだろう。

けれどもわたしにとっては地獄から猛進してきやがる悪魔の足音にしか聞こえないし、美しくもなんともない、ただの恐怖。

「張遼さんの嘘つきィイイイ!」
「お、おい、待たれよ!」



結局散々追いかけ回されて、張遼さんがなんとかなだめてくれたおかげで九死に一生を得た、もう馬に乗りたいなんて言わない、こりごりだ。

「……なまえ」
「……なんです」
「すまぬ」
「もういいです、馬は怖いです、もう乗りたいなんてわがまま言いません」

珍しく眉尻を下げてひどく申し訳なさそうにする張遼さんは悪くない、あの性悪馬がいけないんだ、わたしをいじめてばっかりで。いやでもやっぱり大丈夫と豪語した張遼さんにもちょっぴり非はある……かも。

厩に戻り、張遼さんは性悪を定位置に戻した。鼻息の荒い性悪は不満そうだった。

「すまぬ」
「ほんとにもういいです、料理長さんにお茶もらってお部屋でお茶会しましょう!それで許し」
「いや、本当にすまぬ、だが馬は本来素晴らしい生き物だ、嫌いにはなって欲しくない」

何をするかと思えば鞍と鐙の付いた違う馬を率い、あろうことかわたしを抱き上げてそれに乗せた。

「ちょ、ちょ……!?」
「共に乗ればいい」

そうして自分も鐙に足を掛けて軽やかに馬へと跨った、張遼さんがわたしを後ろから抱き込むようになっている体制ははっきり言って、さっきとは別の意味でやばい。

「一緒に乗れば問題あるまい」

問題は大アリです。

歩き出した馬に揺られ、わたしを支えてくれているのは張遼さんの腕のみ、足は付ける場所がなくプラプラしてるし、必然的にもたれかかることになっている。

急激に忙しなく動き出す心臓の音が張遼さんに聞こえてなきゃいいけど。


Galop

20131012

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