暗から明へ | ナノ


「はえええ!ふひはひぇん!ふひはひぇん!」
「わからんな、何を言ってるのか全くもってわからん」
「うえええ!」

ぎりぎりと音がしそうなくらい抓られているわたしの頬っぺた、ちぎれる!そんなに強く抓って引っ張られたらちぎれちゃいますし、すごく痛いですって張遼さあああん!廊下のど真ん中を闊歩しながら張遼さんはわたしの頬っぺたをちぎらんばかりの勢いで抓りながら歩く、それに引きずられるようにしてわたしは必死でついていく。

すれ違う人達全員が全員振り返って、何事かと興味津々な視線を投げ掛けてくる、もちろん止めてくれる人なんかいない、人の不幸は蜜の味っていうわけだ。

向かうのは張遼さんの仕事部屋(執務室っていうのかな)わたしの手には竹簡がいくつか、それとお饅頭がふたつ。

そもそもなんでこんなことになったのかと言うと、よく言えば休憩、悪く言えば職務怠慢……つまりさぼり、いつものように司馬懿さんや色んな人のところから竹簡を持っていったり取りにいったり、張遼さんの部屋と往復してたんだけど。

その往復間に調理場があるんですよ、料理長さんも居てね、せかせか行き来してるもんだからたまに料理長さんが話し掛けてくるわけで、ちょっと茶ぁ一杯くらい飲んでったらええわ!って誘ってくれるんですよねー!

うん、ちょっとなら……って誘惑にすっかりノックアウトされて、ちょっとのつもりがだいぶそこでタイムロス、時間も忘れて料理長さんがくれたお茶とお饅頭をもぐもぐしてたら張遼さんのね、雷がね。

「なまえ……なかなか帰って来ないと思い様子を見に来ればお前……」
「むぐっ!んー!んーむむむ!」(ひー!張遼さん!)
「おっと、俺は夕飯の支度せにゃな」

料理長さんはそそくさと早々に退散、ひどいわたしを見捨てて逃げた!口の中には詰め込んだお饅頭がぎっちりだったから何もしゃべれなくて、言い訳も弁解もできなかった。

それで口の中の物を一生懸命咀嚼して嚥下、おいしいはずなのに途中から味なんて全くわからなかったよ、それで鬼みたいな形相の張遼さんに睨まれて頬っぺた引っ張られながら部屋に強制送還。

竹簡はもちろんだけど、もらったお饅頭もちゃっかり死守、それを見た張遼さんに、お前はどこまで意地汚いんだって言われたけどこれは食べ物を粗末にしてはいけないと思っての配慮であってですね!決して意地汚いわけではなくてですね!

「食い意地汚いということか」
「あっれ、なんかさっきよりもすごい貶されてる気が」

部屋に戻ってきて張遼さんに竹簡を渡すと広げて一通り目を通して、それに少し書き加えて(受理サイン的な?)またくるくると丸めて元に戻す。隅っこでその様子を見ていたわたしに張遼さんが竹簡を差し出し、持って行けと無言で促したのだが、受け取ろうとした際に、こう……ひょいっと避けられてね。

「え」
「その饅頭を持ったままうろつくつもりか」

持っていたお饅頭、ええと、まあそのつもりですけど。張遼さんは深くため息をついて、それを食べてから行けっておっしゃいました。

「恥を晒しながら出歩かれては敵わん」
「ええと、あ、はい」

ふたつのうちひとつを完食、ラストひとつを食べようと思ったけれど、どうせだから。

「張遼さん、よかったらどうぞ」
「は?」
「ではちょいと行って参ります!」

お饅頭を張遼さんに渡して書簡をもぎ取ると、ダッシュで部屋を出る、いらんとか言われたら悲しい気持ちになるから言われる前にね。

でも戻ってきてごみ箱にインされてたら泣けるなあ、なんて思いながらやっぱり食べちゃえばよかったかも、と少しだけ後悔した。

Intermezzo
(まずくはなかった、予想だにしないなまえの行動には全くもって調子が狂う)


山田さんへ
20110627 
20131213修正

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