暗から明へ | ナノ


「で、なんでしょうか、夏侯惇さん」
「俺も行こう」
「は?どこへ?」
「厩に決まってるだろうが」
「ですよねー……ってだだだだダメに決まってるですけどますじゃないですかもう!夏侯惇さんメッですよメッ!」
「言ってることがめちゃくちゃだぞ、それに俺が居ちゃ都合の悪いことでもあるのか?」

何言い出しちゃってくれてんのこの夏侯惇さんんん!?鬼畜なの?この人無自覚鬼畜なの?
だって、わたしが張遼さんを探してるのは一応告白まがいのものをしに行くためだ、そんなの見られたくないに決まってるじゃないですか!

……とも言えるわけがないし。

「おいなまえ、聞いてるのか?」
「聞こえませんわたしなあんにも聞こえませんゆえに聞きませんあーあーあー聞きたくないでーすうぐえあ」
「ふざけてないで厩行くぞ」
「ちょ!えええ強制ですか?なんにも聞かないからって強硬手段に出るとかそれってすごくいくないと思います!」

夏侯惇さんは真面目です、そして堅いですそれからついでにちょっと猪突猛進なところがあります、わたしが張遼さんに何用があろうと結局はお構いなしなのです。

人の気も知らないでキイイ!

「さっさと行くぞ、お前らは見ていていらいらする」
「はい?夏侯惇さんてば何言って」
「俺達は別に理由を聞きたいわけじゃない」

首根っこ掴まれてずるずる引きずられながら夏侯惇さんが口を開く、見ていていらいらする?俺達?言われたことを頭の中で反芻する。これってお構いなしなわけじゃないよね、なんでかな、どういうわけか知ってるんだけどこの人!

厩にはすぐ到着してそこで掴まれていた首根っこをようやく離してもらえて、呆然としていたら額を小突かれた。

「張遼のやつに言うことがあるんだろうが、何をぐずぐずしてるんだ」

揃いも揃ってここの人達はお節介だし見透かし過ぎだよね、プライバシーもなにもあったもんじゃない、時代が時代だし仕方ないと言えばそれまでだけど。

「……いつからです?」
「俺はつい最近だ」
「どこから情報が漏れたんでしょう?」
「張コウだ、あいつはあんなんだから鋭いぞ」
「っあああ、張コウさんかあ……っ!」
「なんだ意外か?」
「すっかり忘れてました、てっきり料理長さん経由だとばかり」
「ああ、あいつも侮れん、それに妙に気に入られてるぶん目に付くから余計にな」

恥ずかしいよりも悔しさのほうが勝ってた、わたしは張遼さんはおろか誰の心内も読めない、こんな風に鋭くない、自分ばっかり丸裸な気がしたから。

みなさん真面目な話、いじめ並な勢いでわたしの内情事情把握し過ぎです、半ばふて腐れながらうだうだしてる間にも夏侯惇さんが厩に突入を開始、張遼さん居ませんように張遼さん居ませんように張遼さん絶対居ませんように!

いや、でも居てくれないとわたしの今までの行動が無駄になる……けどやっぱり羞恥心には耐えられそうもないから張遼さん居ませんように!

心の中で何度も何度も繰り返したら願いが通じたらしい、夏侯惇さんが厩を見回して首を傾げた。

「いないようだな」
「ということは」
「張遼は居ない、か」

っしゃあああ!内心ガッツポーズ、張遼さん居ないって!危ない危ない、恥ずかしさで爆発しそうになるのは免れた。本当にこれでよかったのか今はまだわからなかったけど、わたしは心のどこかで残念がる自分を必死で無視し続けた。

「と、なると」
「……?」

む、と眉根しシワを寄せて夏侯惇さんが唸る、うわあ怖い……じゃなくて夏侯惇さんてばそんなにわたしが張遼さんに一世一代の大告白するとこ見たかったんですか?やだあ趣味悪い。僅かに夏侯惇さんの好感度ダウンです。

「見損ないましたよ夏侯惇さん!」
「いきなりなんだ」
「お世話焼いてくれるのはすごーく有り難いですけどね!覗き見、ダメ、絶対!」
「意味のわからないことを言うな、それに張遼は次にいつ戻るかわからんぞ」
「……え?」

もう出立だったか、と深く考え込んでた夏侯惇さんはぽつり漏らす、思いがけない一言、出立?それは一体どういう意味ですか、なんでわからないんですか。

「戦があることは知ってただろう?」
「あ、はい何となくみんなピリピリした感じでしたし」
「あいつは先発部隊として前線に向かったわけなんだが」

ひどく言いにくそうに夏侯惇さんが口ごもる、当たり障りがなくて適切な言葉を選んでいるみたいだ、張遼さんもいつもなんにも言ってくれないから戦だとか大事なことはもっと何も言わなくなる。

張遼さんは強いって聞いてたから心配なんか必要ないとは思うけど、戦って戦争でしょ?大規模な争いのない現代に生まれて、過去に来ちゃったわたしには戦場がどれだけ恐ろしいか想像もつかない。こうして夏侯惇さんが言えるところまで言ってくれてるんだから、戦があって出掛ける時くらい、気をつけて行ってきてくださいくらい言わせて欲しかったなあ。

「この戦はとにかく早く終わらせたいがために精鋭を引き連れた張遼に先陣を切らせた、孟徳が兵達を無駄に疲弊させたくないと散々零してたからな」
「そうですか」
「……」
「どうかしました?」

それにしても夏侯惇さんは煮え切らない表情、どこか腑に落ちない様子でまた厩を見てた、点々と空きスペースのある小屋の中を見ていたら一番奥のスペース、つまり張遼さんの馬が居る場所に目が付いた。

おかしい、確かにおかしい。

あの性悪馬がこっちを見てる、夏侯惇さんが煮え切らない表情をしている意味がすぐにわかった、張遼の愛馬であるあの性悪馬が居るからだ。

「張遼さん、居ないんですよね」
「ああ、だが何故か張遼の馬がここに居る」
「わたし最初幻覚かと思いました」
「つまり別の馬に乗って行ったわけか」
「でもなんで」
「兵力を削がれたくないこともある、馬の疲労も考えれば合点はいくが」

どうも嫌な予感がしてならん。

その言葉通り嫌な予感が否応なくわたしにも感染する、張遼さんの性悪馬は主人に置いてきぼりを喰らったせいでなのか、拗ねているように見えた、いつも機嫌が悪そうにしてるけど今日は更に悪そう。

「長引かないことを願うばかりだ」
「張遼さんて強いんですよね?」
「ああ」
「だったらきっと大丈夫ですよ、うん」
「だといいが、な」

くるりと背を向けて城内へ引き返す夏侯惇さんに続いてついていく、夏侯惇さんの言葉ひとつひとつがとても重たく感じた。

(希望は捨てない決然カデンツァ)


20111002
20131213修正

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