暗から明へ | ナノ


城内を駆けずり回った。

暗くなりかけた回廊を何度も行ったり来たり、部屋にも居ない、中庭もいつも鍛練してる道場にも。人づてに何度か見掛けたと聞いたけれど聞いてからその場所に行っても無駄なことくらいはわかってる、時は常に流れ続けてる、待ってはくれない。

わたしに張遼さんの行動予測なんか出来るわけもなく、ひたすら城内をぐるぐるぐるぐる、何周したかなんて覚えてない、同じ景色を繰り返していたせいだ。さすがに息切れがしてきた。壁にもたれてずるずると床に座り込む、走り回ったおかげで温まった身体だけど冷たい風が吹きすさぶせいですぐに冷えてくる、壁も氷のように冷たい。

ひらひらした衣服は始めこそ動きにくくて仕方がなかったけれど、今ではもう慣れたもの、全力疾走する時はたくしあげればいい。

ただし城の人に見付かると、とんでもない奴がいる!なんて顔をされてすぐに張遼さんか司馬懿さんにチクられて、後々延々とぐちぐちお小言を頂くはめになるため、十分な注意が必要でもある。

それから張コウさんにも要注意なのだ、性別がよくわからない中身をしてるし、いや男性だけども美意識が高いって言うよりか常人とは別次元にあると言うか。女子力が高い。彼に見付かることもまた厄介、とても面倒くさい、うら若き乙女がそのようなことではいけません!ああなんと嘆かわしい!私と一緒に美を極めましょう!なんてまた宝塚みたいなね、常人と別次元の女子力アップ講座ですねわかります、謹んでお断りです。

(張遼さん、どこだろ)

駆けずり回ってすれ違う人にもたくさん聞いた。(変な顔された……)居そうな場所を何度も繰り返し時間をおいて見に行った、張遼さんの居場所を尋ねた人達は、また張遼さんに会ったらきっとわたしが探していたことを伝えてくれるはず。

それでもなかなか見付からないってことはもしかして城の中に張遼さんは居ないとか、ひとつの可能性を見出だして厩へ行ってみようと思い立つ。張遼さんの馬が居なければ確定的、厩は未だにノーチェックだった、そう思って立ち上がり歩きだしてすぐに夏侯惇さんとばったり出くわした。

「おいこらなまえ!何故貴様はいつもいつもそうやって俺の顔を見るなり逃げ出すんだ!」
「あ、いやすみませんごめんなさ……夏侯惇さん首!首が締まっ!」

やっぱりいつ見ても怖い顔してるよね、張遼さんには負けるけど、だからついつい条件反射で回れ右したくなるんです。例に洩れずまた夏侯惇さんの顔を見て逃げ出したら今回はそうはいかんぞ!と文字通りに夏侯惇さんはわたしの首根っこをむんずと掴んで引き戻す。

エスケープならず。

「ホントにごめんなさい、だって夏侯惇さんの顔怖……あ、なんでもないですなんでもないです!」
「全く」

夏侯惇さんの大きなため息、縮こまってちらちらと様子を伺ってみる、怒られはしないようで一安心したけれど盛大に呆れられたみたい。呆れられるのはもう慣れっこだ。

「そうだ、夏侯惇さん」

きっと彼なら張遼さんの居場所を知ってるかもしれない、丁度よかった。

「張遼さんを知りません?」
「張遼?」
「ずっと探してるんですけど全然見付からなくて」
「あいつならさっき会ったぞ」
「ホントですか!それでどこに?」

夏侯惇さんは不思議そうに、張遼なら孟徳のところだと教えてくれた。

「そうですかー」
「なんだ不服そうにしてお前、せっかく教えてやったのに」
「いや不服だなんてそんなそんな、ただちょっと残念だっただけです」
「変わらんだろうが」

夏侯惇さんに聞きはしたが曹操さんのところはすでに確認済みなのだ、ついさっきまでここに居たんだがなあ、と言った曹操さんの苦笑した顔がふと思い出される。

完全に入れ違い、ここまで会えないとなるともはやこれは今会わぬが吉とでも言えるんじゃなかろうか。

「全然役立たずなんて思っちゃいませんからね?そんな失礼なこと微塵も思ってませんよ?貴重な情報ありがとうございました夏侯惇さん」
「おいこら完全に思ってるだろ、まあいい、他に当てはあるのか?」
「はい、一応厩に行ってみようと思いまして」
「ああ、張遼の馬があるかどうかってことか」
「なかったらもう今日のわたし馬鹿丸出しですよね、この場に居ない人探して駆けずり回ってるわけですから」
「そうだな馬鹿に加えて阿呆丸出しだな」
「……夏侯惇さん」
「なんだ?」
「それはさっきの仕返しですか?」
「さあな」

じとりと夏侯惇さんを見上げる、わざとらしくふんと鼻を鳴らされた、根に持ってたんだんだなこの人意外と……んーんなんでもない。あんまり余計なこと考えるとすぐ顔に出ちゃうしここの人達みんな怖いくらい人の心の中読んでくれちゃうからね。

さて厩に向かいますか、これで居なかったらとりあえずしょぼーんてしてわたしの勇気と意気込み返せー!って叫びながら料理長さんのとこ行って慰めてもらおうと思ってる。おいしいお饅頭とお茶付きでね!

「じゃ、夏侯惇さんグッドバイで」
「待て」
「うぐえええ」

回れー右っと勢いよく走り出したものだから夏侯惇さんにまた襟首掴まれて止められた時にはもうね、キレていいかな?あ、やっぱやめとこう、夏侯惇さん顔怖いし逆ギレはきっともっとこわそうだしね!うん!

もーほんとなんですかあ?わざとらしく眉根にしわを寄せぶすくれた顔をしてみせる、張遼さんなら不細工な顔がますます不細工だなとかばっさり切り捨ててくるんだろうけど今目の前に居るのは夏侯惇さん。

「ああ、すまん」
「え、あ、いえ」
「……?」

素直に謝られるとちょっと調子が狂う、夏侯惇さんは少し考え込むように顎に手を宛てながらあさっての方向を一瞥した。


20110914
20131213修正

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