暗から明へ | ナノ


慎まやかに、それでいて荘厳で壮大、威厳とも言える雰囲気にのまれたが最期、戦場においてかのお方と対峙していたならば命を散らすことに間違いはなくなる。

「あー行ってしもた、すまへん張遼様」
「……」

しかし今はどうだ。

威厳のかけらもあったもんじゃない、それなりにまあまあ付き合いがあったおかげさまで、微妙な雰囲気の変化もうっすらわかるようになった。張遼様の話しだ、表情にこそ出さんでおられるが、内心考えていることにご自身でも戸惑っとるはず。

今、自分は何をした、何をしようとした、困惑するのを表にだけは出さんようにと必死なんやろなあ。

「……何故、貴殿が謝る」
「いやほんまに悪いことしてしもうて」
「悪い、こと?」
「いい雰囲気やったのをぶち壊しに」
「……」

これでもか!というほどに眉間に深い溝を作った張遼様は黙りこくってこちらをじとり見遣る、何を見てそんな言い草ができるのだと視線がものを言う。いやはやご自身で気付いておられへんのか、はたまた気付いてたとして認めたくないんやろか定かではないが。

たかが料理人の分際、それでも勘は鋭い方やと思っとります。

「なまえが気になるのと、違いますか?」
「……は?」
「好きではない、が、嫌いでもない」

一瞬固かった表情が崩れ、目ん玉を真ん丸くした張遼様は素っ頓狂な声を上げた、ふーむ……前者でもあり後者でもありそな感じやわ。

「どういうことだ」
「どういうって……そのまんまの意味ですがな」
「まるで読めん」

つまりなまえが気になっとることにどこかで気付いてはいるが認めたくない、と思ってるはずなんやけどもそれ自体に気付いておられへん、ってとこか。ああ、ややこし。

「それはそうと、張遼様」
「まだ何かあるのか」
「なまえ、追いかけなくてええんですか?」
「追いかける理由がどこにある」
「理由もなにも」

まだなまえに何か言いたげでしたやん、それにせっかく差し延べた手、引っ込めたままで……ってこれは俺が邪魔してもうたから何とも言えへんけど。そういや、そもそもお二人は厩の前で何してはったんです?なんかさっきからずっと辺りをうろうろしとる子馬が一頭いるとこからして、なまえはこいつの世話役っぽい感じやし。

じゃあ張遼様は何を?なまえと一緒に子馬の世話役?まさかまさか、張遼様の言動からそれはあれへんよなあ、なまえの頭に包帯が巻かれとったことも気になる。

「なまえ、頭どないしたんです?」

下っ手くそな巻き方、あれ絶対そのうち取れるで、司馬懿様の殺人光線でも掠ったんやろか、それともまたドジ踏んで転んだんやろか、原因は何でも考えられる。

「あれは……」

うろうろしとる子馬邪魔や、厩戻っとかんかい!ふと子馬に視線を移した瞬間、ぽつり張遼様が呟いた、何でも考えられたなまえの頭にある包帯の意味、まさか張遼様が原因だとは思ってもみんかった。


20110610
20131212修正

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