暗から明へ | ナノ


ぶるる、と鼻を鳴らし、つぶらな瞳をこちらに向けている子馬、何故お前がここに居るのだ。

なまえが、掃除用具の片付けだけはやっておかないと!と再び厩へと向かったものだから、また私の馬に噛まれるようなことがあってはかなわぬ、様子を窺いに後を追った。そうして厩の外に足を運んだところ、一頭だけ厩の外でのびのびしながら私を見つめている。どうやら遊べと言いたいらしいが。

何故勝手に厩から出てきているのだと不審に思い、おもむろに厩へと視線を向けると、入り口には呆然と立ち尽くすなまえ。子馬と私を交互に見てはいるものの、何と言ったらよいものかわからず試行錯誤、考えを巡らせているようだ、その間も子馬は私の周りをうろつきながら前足をも踏み鳴らし始め、遊べとせがむ。

「悪いがお前と遊ぶためにきたわけでは」

言ったところで通じるとは端から思ってはいないが、とりあえず掌を向けながら言うだけ言っておく。わかったのかわからないのか定かではないが子馬はどうしたものか、周りをうろついていたのをやめて、私の背後に回ると頭を使い、厩へ行けとでも言いたげに腰を押してくる。

押されるがまま自然と厩へ足を運ぶ形になり入り口へと近付く、そこに呆然と立ち尽くしたままのなまえがその様子を見ていた。見ていないでどうにかしたらどうだ。

「え……張遼さんどうしてここに?あ!ちょ、子馬!」

厩の入り口、なまえと正面から向かい合うような形になり、子馬は押すのをやめて私となまえを交互に見つめては鼻を鳴らす。
はっと我に返ったなまえが慌てて厩の中へと子馬を連れ戻そうとするが、子馬といえど馬の力は思いの外強い。

抵抗を見せ、厩に戻ることを拒んだ。

「ねえ子馬、お願いだから戻ろうよ、わたしにはどれだけ迷惑かけても構わないから」
「何故こいつは外に?」
「厩の中で柵をぶち破りまして、何にでも興味津々らしくて」
「とんだじゃじゃ馬のようだ」

しばらく押したり引いたりを繰り返すなまえだがまるで歯が立たない、子馬は遊んでくれているものだと勘違いしたのか、嬉しそうに跳びはねる。

「ね、子馬いい子だか……ぐへあ!」

どすんと鈍い音を立ててなまえの鳩尾辺りに子馬の頭突きが見事にはまった、不意打ちに身悶えやるせなさでも感じているのか、うち震えてもいるようだ。馬は生半可な気持ちで対応するものではない、基本的に動物は自分を扱う人間に対して自分よりも使えぬ格下と認識すると、途端に見下し攻撃的になる傾向がある。

「こ、子馬ァ……お前、今のはきいたぞ子馬ァ……!」
(一見するとなまえが遊ばれているように見受けられるが)

この子馬はなまえを見下しているわけでもなく、攻撃を仕掛けているわけでもない、ただ純粋にじゃれついているだけなのだ。それも相当なまえを気に入りまるで母馬について回るような、そんなふうに見受けられる、しかしこの子馬の大きさからいって母馬から親離れするにはいささか早いのではないか。

「おい、母馬はどうした」
「え?ああ、母馬は出産と同時に力尽きちゃったみたいで」
「そういうことか」

孤児ならぬ孤馬か。

そう呟けばなまえは子馬を厩へ戻そうとするのをやめて子馬の顔をじっと見つめながら頭に手を乗せる、たてがみを整えるように撫でた。その横顔はどこか寂しげでよくよく考えてみればなまえも孤児同然であることを思い出す。

未来から来たというのは未だにわかには信じ難いが、何となく自分達とは少々毛色が違うことだけは出で立ちと雰囲気から感じ取れた。時折意味のわからない言葉を言ってのけるものだから、始めこそ新手の間者かと疑ったが武人らしさのかけらも何もあったものではない。

それこそどことなく小綺麗で平和ぼけした様は、戦など微塵も知らぬ赤子のように純粋無垢のままである。刃を向けた時に見せた恐れおののく姿は演技でもなんでもなく純粋に恐怖を感じていた。

「互いに独りきりであることに何か惹かれるものでもあったのか」
「え?」
「お前と子馬だ」
「わたしと子馬が、ですか?」
「信頼と呼ぶには頼りない、だが少なくとも子馬はなまえを気に入っていると言えよう」
「そうなの?」

なまえが首を傾げながら尋ねると子馬も同じように首を傾げながらぶるる、と鼻を鳴らす。まるでなまえの問い掛けに、子馬もそうなのか?と聞き返しているようだ。

「つまり加えてどちらも互いに阿呆というわけなのか」
「なるほど、似た者と言うことですね……ってひどい!」
「見た事実を言ったまで」
「余計にひどいですよね」

きゃんきゃん吠えるなまえを尻目に、子馬の方は我関せず顔で足元の草をつついて遊んでいた。

20110327
20131212修正

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