暗から明へ | ナノ


しばし待たれよ、と言って出ていった張遼さんが戻ってきた。なんだかよくわからないんだけど、成し遂げたぞ!みたいな顔していたので、一応どうかしたのか尋ねてみた。

「別にどうもしてないが?」
「ほらね」
「……何の話だ」
「どうかしてたとしても、教えて頂けないことは百も承知でしたという話です」
「わかっているじゃないか」

いやでもわかっていてももしかしたら……ってこともあるかもしれないから一応聞いてみたわけです。

「じゃあいいことでもあったんですか?」
「特に何もない」
「でも」
「くどい」
「すみません」

結局やっぱり教えてくれなかったけど!

それでも気になるじゃないですか、明らかに顔付き違うんだもん。雰囲気っていうかオーラっていうか、こう……何て言ったらいいのかな。

上手く言えないけど張遼さんの中で解決したとか納得したとか、そういう感じ。相変わらず口調は厳しいけど以前のような刺々しさは大分マシになっと思う、それからちゃんとまともに言葉を返してくれる。たまに辛辣だけどね。

張遼さんの中でどんな心境の変化があったのかはわからない、でもわたしからしてみれば長年(と言えるほどここに居る期間はまだそんなに長くないけど)の苦労が実ったも同然。ちょっぴりでも前に進めた気がしてそれだけでもすごく嬉しいし、がんばってみた甲斐があった。

「何をにやついてるんだ」
「に、にやついてなんかないです!」

別ににやついてないし、ちょっと頬っぺたが緩んじゃっただけなのに。

ってどっちにしても同じ意味か!

「だらし無い顔だな」
「ひど!」

オーバーに傷付いたような顔をしてみせれば今度は不細工だと言われ、口を尖らせればまるでお笑いだな、と。うぐぐぐ……だめだ、口じゃあ張遼さんに勝てる気がしない。いや口だけじゃなくて取っ組み合いっていうか、腕比べみたいなやつなんかもっと勝てっこない。言い返す言葉を見付けることが出来ずにその場でそわそわするしか出来ることはなかった。

それに早く他の話題も探さないとまた用がないなら、と追い出されるかもしれない。懸命に言葉を続けようとしたものの何も出てこない。考えれば考えるほど頭は真っ白になっていくし……って、あれ?一人悶々として、ふと張遼さんの方を見てみれば彼は机に向かって書き物をし始めているものの一向に出て行けと言う気配はない。

これは、このまま居てもいいってことなのだろうか、それとももう言っても無駄だと思われて半ば諦めているのか。どちらにしろわたしは意地でも居座るつもりでいたけどね!

「あまりじろじろ見てくれるな、不快だ」
「そんなに見てません!」

ぱ、と急に顔を上げた張遼さんと目が合い、それからまだここに居座るつもりならば立ちっぱなしというのも目障りだからその辺の、視界から少し外れたところで椅子に掛けてはどうか、と勧められた。

め、目障り……!確実にわたしの精神的HPを削っていく言葉のチョイスにいろんな意味で感服。でもでも追い出されなくて椅子に掛ければと勧められたってすごい進歩、ミラクル!わたし今奇跡を目の当たりにした!あからさまに盛大なため息が聞こえたけれど、この際だから気にしない。

煩くしないように椅子を動かして張遼さんの視界から少し外れた扉付近に着席、一応居座れたのはいいのだけれど、果たして居座った意味があるんだろうか。張遼さんと部屋でふたりきり、あれ?わたし仕事を楽しく円滑にしたいがために上司と仲良くなろうぜ的な計画したんだよね?仲良くなるんだよね?

今は……仲良くと言うよりむしろ一方通行じゃないか。

「なまえ、顔が煩い」
「か、顔が煩いってなんですか、顔が煩いって!」
「そのままの意味だが?にやついてみたりしょげ返ってみたり、全く顔が騒々しい」
「ひど……え?」

いつの間にか百面相なんかしていたようで口煩いならまだしも、顔が煩いとか騒々しいなんて言われてしまった。それはそれでショックなのだがその前に張遼さん、一番最初になんて言いました?なまえってわたしの名前、呼びませんでしたか?

「え、あの、今……な、名前!」
「お前は私の女官だろう名前くらい呼ぶ、それとも何か問題でもあるのか?」
「ないですないです全然問題ないです」

もしかしたらちゃんと名前を呼ばれたのって初めてかもしれないから驚いた、どうしようすごい感動!

感激!ぜ、ぜひとももう一度……この感動をもう一度下さい張遼さん!嬉しさの余り椅子から立ち上がり、ふらふらと張遼さんの元へ歩み寄ろうとしたのだが、何故かそれは叶わなかった。急に勢いよく開いた扉がわたしを跳ね飛ばしましたからね、それから大分苛立ったような声が聞こえてきて、サーッと血の気が引いた。

やばい、すっかりうっかり忘れてた!

「失礼する!」

紫色が基調の、彼の名は。

20101109
20131212修正

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