暗から明へ | ナノ


張遼さんのところで時間を食った分、自分の食事時間が大幅に削られた。少しだけうざかったな、と思ってしまったことは自分の心の中だけに留めておくことにした。(夕食は残り物の炒飯だった、美味しかった)

調子に乗って張遼さんをイライラさせてしてしまった後だから、なんとなく気が引けるが何事も最初からなかったかのように行けば大丈夫。すっ、と入って、さっと出ればノープロブレム。

「お膳下げに来ました」

こんこん、と扉をノックして呼び掛ける。しかし応答はなく不在のようだ、お膳下げに来ただけだし、不法侵入じゃないし。どうしようかとまごつくこともなく適当に理由をくっつけ、さっきの失敗でびくびくしてはいたが、不在とわかると内心ラッキー!と思いつつ中へと進む。

明かりの消えた室内で壁に激突しないよう目を凝らし、目的のお膳を見付け持って出ようとしたが。

不思議なことにお膳が重い、どれにも手を付けられておらず白湯すら残っている。つまり張遼さんは何も食べていない。

「うっそ、なんで食べてないの」

これでは持っていこうにもいけない、予想外の展開だ。困ったぞ。

よく考えなさいなまえ、もしかしたらトイレかもよ、それか先にお風呂とか、あとは……ええと……思いつかないけどどこ行ったの張遼さんは。

まだ会って間もないから行動パターンなんかわかるはずもない、食事前にしなきゃならない儀式なんか聞いてないし。そもそもそんなものがあるのか不明だが。少なくとも女官長さんは何も言ってなかった。

だったらこんなお腹が空く時間に張遼さんは、ご飯も食べずに一体どこへ?しばらく考え込んで、一番行き着きたくない答えが自然に導き出される。まさか大の大人に限ってそんなことはありえない、とは思う。

「……わたしが持ってきたものなんて、何が入ってるかわかんなくて食えるか!みたいな?」

ほんとにそんな理由なら小学生か!って。

確かにね、未来から来ましたー!だなんて信じ難いし怪しいこの上ないけど、来ちゃったんだから仕方ないじゃない。

あぁもう!なんなの、ここの人達はか弱い乙女のハートをずたぼろにして、何が楽しいわけ?せっかくこんなおいしそうな献立なのに、わざわざ毒なんか盛らないっての勿体ない。

小籠包みたいなのがわたしを食べてって呼んでるもん、冷めてもすっごいおいしそうだよこれ。わたしらは残り物とからしいし、いらないなら食べちゃいますけど、本気で。

「何をしている」

ぎい、と扉の開く音がして部屋に明かりが点され淡い光りに包まれる。どこへ行っていたのか、張遼さんが戻ってきた。

「張遼さんはどこに行ってたんですか」
「言う必要性がどこに?」
「言いたくないなら別にいいですけど」

食事が終わる頃だと思ったので、お膳下げに来たら何も食べてないじゃないですか。これじゃ下げられません。なんで食べてないんですか、そう聞けば張遼さんは表情ひとつ変えず再び机に向かい、書簡を広げながら淡々と話す。

「素性の知れぬ者が持ってきたものを、そう易々口にしようとは思わん」

うっわ、きたこれ。

まさかの小学生レベルの嫌がらせ、悪びれた様子なんて微塵もない。食べないなら最初から言えばいいのに……っていうかそもそも毒なんか盛ってないし持ってないから!あ、いや今のはギャグとかじゃなくて、そいうんじゃなくて。

むかむかした気持ちを抑え、拳を握って堪える。それを持って下がられよ、と平然として言ってのける張遼さんに、いよいよ堪忍袋の尾も限界だ。現代の常識が通用することのないこの時代、理不尽なことだって当たり前、ここではそれが普通のこと。

そう、だから仕方がないんだと頭ではわかってる、郷に行っては郷に従えっていうけれど、限度ってものがあるでしょう。そちら様がいつまでもそういう態度ならこっちだって、相応の態度でいかせてもらおうじゃないの。

「……なら」
「まだ何か?」
「何かって?食べないなら最初から言ってくださいよ!なんでわたしがわざわざ何の恨みもない人の食事に毒盛んなきゃならないんですか?盛るくらいなら自分で食べますし、率先して犯罪者になる気なんかさらさらありません!」

噛み付くように言い返したら、もう止まらない。張遼さんが目を見開いて書簡から視線をこちらに向けた。卓上にあったお膳を引ったくり、張遼さんのいる机の真ん前に陣取り、床に胡坐をかいて荒々しくお膳を目の前に置く。

そんなに言うなら頂いてやりますよ!と手を合わせて箸を手にし、ひょいぱく、と次から次へと器を空にしていく。

思った通り、小籠包みたいなやつはおいしかった。お行儀が悪いとか、早食いは太る原因とか、胃に負担がかかるとか、今はそんなことお構いなし。がっつり食べて、これのどこに毒が入ってるっつんだこのやろ、ということを主張。

あぁおいしかった、と厭味っぽく冷めきった白湯を飲み干し、お膳に戻して再び手を合わせて、どうもご馳走さまでした。

「毒なんて盛る必要性がまずわたしにはないので、もう一度お食事持ってきますから!」

軽くなったお膳を持って立ち上がり、極力笑顔で失礼致しました、と部屋から退散。

おおよそここまでトータル3分弱、始終呆然としていた張遼さんを見たら、なんだか少しだけ勝った気分になった。助けて貰ったお礼の言葉を述べて間もないというのに、この態度の豹変様、自分でも何やってんだか……とは思ってる。

でもこれで食事にわざわざ毒なんか盛らないんだぞ、ってことだけは主張できた。女官やめるとか、そういうことはこれっぽっちも考えてない。どんなに遠回りになろうと、時間が掛かろうと、意地でもこの世界に順応して認めさせてやるんだ。

むん、と意気込みすれ違う人から白い目で見られようとお構いなしに、もう一度張遼さんの分の夕食を作ってもらうため、厨房へとダッシュで戻った。


20100313
20131211修正

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