閉鎖空間、猫屋敷 | ナノ


あの、俺の人生の中でも忘れられない日を迎えてから半年以上が経つが、俺達の奇妙な関係は今もなお続いていた。
と言っても、花子はこちらがびっくりするほど普通だった。うちに来ては何も無かったかのように、いつものように猫と戯れて、お菓子を食べて、テレビを見たりダラダラして。
まさかあれは俺の都合のいい妄想か夢だったのか?と思ったりもしたが、そこまで現実と妄想の境がわからない馬鹿ではない。あれは確かに現実だった。初めて触れた女の胸。胸と言ってもほぼまな板だったが、俺の俺が元気になるほどには興奮した。そしてかすかに触れた乳首。指先だけで触れたそれの感触もしっかりと覚えている。

警察ではなくて花子が来たあの日、俺は何故また来たのかという苛立ちと、また来てくれて嬉しいという気持ちがちゃんぽんして、また触れたいと思ってしまった。
その欲求は止まってなんかくれず、俺は寝転がりながらテレビをみている花子の後ろに近づき、まずはそっと頭に触れた。酷いことは、多分しない、だから怖がらないでほしい。そんな気持ちをこめて、猫を撫でるように優しく撫でた気がする。
花子は嫌がることもせず黙ってそれを受け入れた。嬉しい、でも、やっぱり無防備だ。
俺はそのまま手を滑らせて、肩、二の腕、肘へと触れて、花子の腰に手のひらを落ち着けた。

花子は何も言わない。抵抗もしない。何を考えているのかわからなかった。
無言は肯定と解釈した俺は、そのまま花子の服の中に手を滑りこませ、薄い腹に触れる。びくりと体を揺らした花子に俺も少なからず震える。お、おれはまた、罪を増やして……。頭ではわかっていたのに、欲望は止まってくれない。しかも、花子のやつも抵抗しねぇし。しろよ、抵抗。してくれたら俺も止まれるのに、なんて人のせいにして。

と、そんな行為をこの半年のうちにもう何回も繰り返してきた。触れるのは上半身、主に胸中心だけだったが、触れている間は妙な幸福感が俺の頭と心を満たしていた。
俺の一方的な触れ合いタイムが終わると、花子はいつも通りの花子になる。最中はどうした?ってくらい静かになるのに、それ以外はやっぱりいつもの花子で、最初はそのギャップに戸惑ったりもしていたけど今ではもう慣れたものだ。
そんなこんなで、冒頭の<奇妙な関係>というのは、そういうことである。



この行為に慣れてしまうともう捕まるだの捕まらないだのはあまり気にならなくなっていた。慣れって怖いよね。あんなにビビってたのに、今じゃあ習慣化してんだから。

俺が行為に移すのは決まって花子が寝転がっている時で、冬の間は寒いから布団の中に連れていったりもした。これは花子が何も拒否しないのが悪いと思う。
しかし今は冬とは真反対の夏真っ盛り、布団の中なんか暑くて入れやしない。だから俺は猫用という名目で買ったひんやりマットレスを居間に敷いて、そこに花子が寝転がるように仕向けた。
俺の予想通り、花子は昼過ぎるとそこを占拠する。だから俺はその背後に寝転がって、少し汗ばんだ背中に手を入れるんだよね。「汗汚いのに」という花子の言葉はいつも聞かないふり。この頃になると、このセクハラ行為中はお互い喋らないというのが暗黙の了解になっていた。まあもともと喋ることなんかあんまりなかったけどね。