閉鎖空間、猫屋敷 | ナノ

なんかもうどうでもいい。

おかしなテンションに突入してしまった俺は、飛び込んできた花子をぎゅ、となるべく優しく抱きしめた。
……ちっせ……。花子ってこんな小さかったっけか。まじ子供じゃん。いや子供なんだけど。数年前より大きくなったといっても、まだ10歳の子供なんだ。胸に抱くとその小ささが際立って、俺の理性がやめておけと囁いてくる。

…いつもなら。いつもだったら、ここでストッパーがかかるはずなんだけどなあ…。やっぱり今日の俺はちょっとおかしいらしい。さっき変な夢を見たせいかもしれない。今花子にキスしたら、こいつどんな顔するんだろうな。

そんなことを考えながら、俺は手のひらをするすると下降させていき、背中の方から花子の素肌へと触れてやる。ヒヒッ…やっば……僕、今すっごい最低なことしてる。
指先だけしか触れていないのに、それだけで背徳感がギュンギュン音を立てて僕を責め立てる。でも、不思議なことに脳みそが勘違いでも起こしているのか、罪悪感が快感に変わってしまったみたいで、ぼくは酷く興奮していた。

花子の方はというと、指先が触れたぐらいじゃなんとも思っていないようだった。
それなら、と僕はするりと手のひらを花子の服の中に滑り込ませて、そのすべすべな背中を円をかくように優しくなでてやる。
すると、流石に花子も驚いたようで、ゆるゆると顔を上げると「おじちゃん?」と不思議そうに首を傾げた。

「何してんの?」
「…寒いかなと思って、あっためてる」
「なるほど!ありがとー」

馬鹿な花子はそれに納得したようで、また目を瞑って僕の胸に頭を預けた。こいつ寝る気か?帰りの電車とか大丈夫なの?いや、つか、こんなゴミクズに素肌触られてんだからもうちょっと警戒しろよ。ほんとに。

まだ小学生とはいえ、あまりにも警戒心がなさすぎて逆にイラッとしてしまった俺は、手のひらを背中から脇へと移動させた。あーこいつ、あー。そうだよな、まだ下着なんかつけてませんよね。これもうちょっと手ぇずらしたら、乳に触れるぞ。小4っても、流石にわかんでしょ。少しは違和感感じるだろ。このおっさん、やべーことしてるって。わかれよ、わかってくれ。このおっさんはもう優しいだけのおっさんじゃないんだって。

「うわくすぐった!」

きゃははじゃないよ。
ねえ、わかってる?遊んでんじゃないんだよ。俺、お前に興奮してるんだって。たのむから、オレがやばいことする前に逃げてくれ。僕はもう、歯止め効かないかもしれないから、お前が逃げてくれなきゃ、だめなんだよ。

僕の薄っぺらな理性はとうに破られた。
どーでもいい。これでつかまったとしても、もう、仕方ないでしょ。捕まるべきなんですよこんなクズはね。

僕は脇から、するすると手を移動させて、ついに花子の胸へと触れた。まだうすっぺらなそこ。少しも膨れていない、男の子みたいな胸なのに、僕の興奮度はMAXを超えた。

「えっ?」

花子の疑問に満ちたその一言に、俺の覚悟も決まる。豚箱上等、猫達の世話は癪だがクソ松にでも頼もうなんて頭の隅で考えながら、最後だしどうせなら。と、やわやわとそのまな板のような胸を揉んでやる。
花子はそれから、なんにも反応を示さなかった。怖いのかもしれない。そりゃそうだよなあ、ごめん、花子。でも、こういうことになるから、むやみやたらと男の布団の中に入るもんじゃないんだよ。これに懲りたらもう俺みたいなやつには近づかないで、普通の同級生と普通の恋愛をして、普通に暮らせ。それがお前の幸せだろ。

俺は最後に小さな乳首にもちょっと触れつつ、花子の服から手を抜いた。

「…怖かった?」
「…わかんない」

わかんない?怖かっただろ。素直に言えばいいのに。
俺は花子の頭をポンポンと2回叩いて、ゆっくりと布団から抜け出した。花子がこっちを見たような気がしたけど、目は合わさずにそのまま立ち上がる。

「ホットミルク作るからそれ飲んで帰れ」
「えっ……」

冬によく作ってやった牛乳をレンチンして蜂蜜入れただけのあっまい飲み物、花子が美味しい美味しいって飲んでくれたやつ。最後に作ってやるから。作るってもチンするだけだけどさ。それ飲んで、もう帰ってくれ。そんで母親だか警察だかに言えばいいんだ。







その後、少し遅れて2階から降りてきた花子は素直にホットミルクを飲んで帰っていった。いつもみたいにピーチクパーチク喋らなかったから、少々重たい空気だった。

1人になった居間の隅っこで、体育座りをしてみる。あー落ち着く。この家が騒がしかった時はいつもこうやって隅に座ってじっとしてたっけな。ゆっくりと目を瞑って、深呼吸をする。…警察来るなら速く来いよ。待ってるこの時間が一番苦しいんだよ。クソが。



ーーーー………しかし、待てども待てども警察が来ることは1度もなかった。
インターホンなんか、鳴りやしない。やって来たのは、いつものように「おじちゃんお邪魔!」とずかずか家に上がり込んでくるあいつだった。