閉鎖空間、猫屋敷 | ナノ


花子は嫌だやめてと言うわりに抵抗らしい抵抗をしない。顔を背けてじっと耐えるように目を瞑るだけだった。そんな仕草さえ、今の僕には興奮材料にしかならないというのに。

「いいの?そんな抵抗じゃ止まらないよ」

花子はこちらを見ず、ふるふると首をふる。だから止まらないって言ってるのに。

俺は腰の動きを止めて、花子の首筋に顔を埋めた。すん、と息を吸えば制汗剤のにおい。バイト上がりにスプレーかなんかしたんだろう。嫌いな匂いじゃないのでそのまますんすんと動物のように、耳の裏まで匂いを嗅ぐと花子はビクビクと反応を見せた。

「…感じてる?」
「っ…」

耳元でうんと低く囁けば、首をすくめて手のひらで口元を押さえる少女に、俺はついついいい気になってしまう。
僕の口元は醜く歪んだ。

「ん、」
「っや、おじちゃっ…」

そのまま耳の穴に捩じ込むように舌を出し入れすると、花子は流石に焦ったような声をあげる。可愛い。可愛いよ花子、ほんと、さいこう。

耳を攻めつつ、服の中に手を突っ込むと、やっと花子の抵抗が強くなった。それを押さえつけるように花子に上乗りになると、今度は足をバタバタと激しく動かすので小さく舌打ちが出る。遅いんだよ、色々とさ。

「抵抗しなかったら優しくするけど」
「おじちゃんわたし、」
「初めてでしょ。なるべく痛くないようにする」

カッと花子の顔が赤くなる。めずらし…。こんな花子の顔初めて見るななんて思いながら、俺はなるべく優しく、花子の頭を何度も何度も撫でた。

「ほんとにするの…?」

不安そうな目で僕を見る、愛しい花子。この間まで小学生だったのになあ。懐かしみながら、頭を撫でていた手のひらを頬へ移動させる。花子はぴく、と頬の筋肉を震わせ、何か言いたげに、何度も口をパクパクと小さく開閉させた。
その唇に親指をすべらせれば、それも止まる。花子は息を大きく吐くと、覚悟を決めたように話し出した。

「…おじちゃんは、なんでこんなことするの?昔から、してたよね?胸だって触るし、アソコ触ったこともあるよね?お、女の子なら、誰でもいいの?私は、おじちゃんの、なんなの?」

震える口から出てきた言葉の数々に、俺は目をぱちくりとさせる。花子からあのことを話題に出されるのは初めてだった。まさかそんなことを問われるとは思っていなくて、つうと視線をさ迷わせる。おじちゃんのなんなの?そんなの、俺が聞きたい。お前は俺のなんなんだ?
間違った回答をしないように、考えれば考えるほど言葉につまってしまって、みるみるうちに花子の顔に影が増す。なんでそんな顔するんだよ。俺だって、お前の考えてること、わからないよ。

「…えっと、まず、誰でもいいわけじゃない」
「うん…」
「俺はお前が、小さい頃から、すきだった」
「……」
「好きだったから、触れたくて、あんなことした…」
「…私のこと好きなの?」
「2度も言わすな…」

クソ、酔いがさめてくる。

「そっか…」

花子は目線を下に下げると、ほんの少しだけ笑った。

「ちょっとだけ安心した」
「…そこで安心するのかよ」
「ただの性欲処理かなって思ってた」
「………」
「私、おじちゃんのこと完全に拒否できないの」
「…なに?」
「おじちゃんのこと好きだよ。恋愛的かって聞かれたら、まだよくわかんないけど、でも、やっぱりあんなことされてもまた来ちゃうくらいには好きなんだと思う」
「…なに、それ」
「ホントはエッチしたくないよ。嫌いとかじゃなくて、なんか、後戻りできないような気がして」
「うん…」
「でもおじちゃんが無理やりしたら、私は、あんまり抵抗できないと思う」
「しろよ…」
「してほしいの?」
「………」

はーーーー。
俺は、深い深いため息をついた。やっぱりこうなる。こいつのペースにのせられる。クソ、と心の中で悪態をついた俺はもうすっかり余裕顔になってしまった花子の横にごろりと寝転がった。

「….悪いけど、俺はもう我慢できない。またこうやって家に来るなら俺に襲われること覚悟して来てよ」
「ずるいね」
「どっちが…」

はぁ、今度は短いため息を吐いて花子に背を向ける。酔いは完全にさめた。まだ軽く残る苛立ちを逃すように貧乏ゆすりをすれば、後ろから花子が「ごめんね」と一言呟いた。


どのくらいそうしていただろう。
花子の「そろそろ帰るね!」という声に俺は振り向くことができなかった。不完全燃焼なのだ。花子もそれをわかっているのか、特に突っ込まず、食べたものの片付けをして「またね」と帰っていった。
またね。か。俺はとんでもない女を好きになってしまったなぁ、と誰もいなくなった居間で仰向けになり、光を遮るように腕を顔の上にのせた。









それから花子は変わらずうちへやってきた。呆れる。もうなんなんだろうこいつ。やだなぁ。鬱々としつつも色々と吹っ切れた俺は、何度か花子に触れた。花子は一応の抵抗はするけれど、軽い感じで「もうっ」とあしらう程度だ。
花子がもう少し大人になって、男を知ったら、あるいは男に抱かれたくなった頃、もうセフレでもなんでもいい。なれたらいいな。なんて馬鹿みたいな妄想をしながら、俺は今日も花子にちょっかいをかけるのだった。