閉鎖空間、猫屋敷 | ナノ
※六つ子の誰かが結婚する描写あり



花子のガードの硬さは凄かった。

まず、触れていい範囲と駄目な範囲がきっちりと決まっていた。今の花子に触れていいのは肩だけだ。ねえねえと叩く時。ちょっと腰を触ろうものなら無言で睨みつけられた。まるで反抗期の娘を持つ親父の気分だった。こないだまで一緒に風呂に入ってたのに…そんな感じ。

しかし花子が昔の、俺のほぼ犯罪行為の触れ合いについて話すことはなかった。責められることもない。ただ、今の花子には触れられなかった。正直物足りない気持ちはあったけれど、また花子が居なくなってしまうよりはいいかと思えた。花子が来てくれるだけで、飯を作ってくれるだけで、会話ができるだけで。幸せだった。幸せだったんだ。







花子が高校2年生になったころ、兄弟の1人が結婚式をあげることになった。久々に集まった6人、話題は結婚した奴より俺のこと。

一松家で何してんの?もう結婚してないのお前だけだよ?まさかまだ童貞なの?やばくない?男が好きなの?女子高生出入りしてるってマジ?捕まるのだけはやめてよねー。

散々な言われようだった。祝いの席だというのに、へべれけになった兄弟たちは言いたい放題、俺だってこの年で童貞なの気にしてないわけではない。1度風俗に行ってみたけれど緊張のしすぎで勃たなかった。お姉さんが一生懸命ちんこをしごいてくれたのに、ひとつも反応をしなかった。男として、ショックすぎて軽くトラウマになった。まさかED?と思ったけれどAVを見れば元気になったのでそこらへんの心配はないようだった。しかし、また風俗に行こうとは思えなくて今現在に至る。

とまぁ酔っ払ったクソ兄弟たちの暴言は酷いもので、しかし俺も言い返せず、モヤモヤとしたまま帰路についた。まだ19時とかそんな時間で、とりあえず風呂に入って口直しにドクペを飲んだ。久々に飲みすぎた。気分は悪いが気持ち悪さはない。ちくしょう、追加でなんか飲むかと思った時、玄関がガラガラと音を立てた。

「おじちゃん〜」

花子だ。こんな時間に来るということは、バイト帰りだろう。最近花子はバイトを初めて、たまにこうしてバイト終わりにやってくる。ちゃんと飯を食ってるかの確認らしい。
俺はまだ若干ふらふらする体で玄関へ足を運んだ。

「…おつかれ」
「ん?!なんか臭い!お酒飲んでた?!」
「今日結婚式あったからね…」
「人の結婚式でそんな飲むものなの…?まぁいいや、店長がこれくれたから、おじちゃん食べな」
「なにこれ」

差し出されたビニール袋を受け取り中身を覗くと、ケーキが二つ。

「…花子は食べないの」
「この時間に食べる勇気はちょっと…」
「は?」
「カロリーが…」
「チッ…なに女の子みたいなこと言ってんだよ、さっさと上がって食ってけ!」
「え〜…」

嫌そうな顔をしつつも靴を脱いだ花子を見て、俺はフンと鼻を鳴らして居間へ戻った。
ケーキをテーブルに置いて、花子の飲み物を用意する。ついでに俺用の酎ハイも。

「おじちゃんまだ飲むの?」
「悪い?」
「そんな飲む人だったっけ…?」
「うん」

嘘だ。本当は酒に弱い方である。

「ふぅん…」

花子は興味なさげに呟くと、テーブルの前に座った。

「私チーズケーキがいい〜」
「がっつりカロリーじゃん」
「食べるなら好きなやつ食べるし…」

唇を尖らせて睨まれても何も怖くない。むしろ可愛い。なんだその唇は吸い付くぞボケ。
俺は残されたチョコレートケーキの透明なペリペリを剥がして酎ハイのプルタブを開けた。果たしてケーキと酎ハイは合うのか。花子も「うげ…」と苦そうな顔をしている。

「なんかおつまみ買ってくれば良かったねぇ」
「いいよ別に、こだわりないし」
「そういうもん?」
「俺はね」

なんてことない会話をしながら、もくもくとケーキを食べる。花子はなんだかんだ言いながらパクパクと美味しそうにケーキを完食した。俺もケーキを食べ終わる頃には酎ハイが半分なくなっていた。フワフワする。

「ねむたぁい。明日休みで良かったよ〜」
「…泊まる?」
「泊まってしまいたい〜帰るのめんどくさ」

ぐでんと机に突っ伏した花子を見下ろす俺の目は、焦点が合っているのだろうか。花子も花子だ。こんな時間に男の家に上がり込むなんて、何をされてもおかしくないのに。

「花子。」
「ん?っわ!」

目を瞑って自分の腕を枕にしていた花子の耳に、触れるか触れないか程度のキスをした。思った通り花子は飛び起きて、むっとした顔で俺を睨みつける。

「ダメ。もう、だめだよ。」
「…なんで?」
「なんでって…」
「こんな時間に、男の家に来る花子の方が悪いよね」
「…おじちゃん?」
「…一松って呼んで」
「っちょ」

どさり。こんな小娘押し倒すのなんか簡単だ。花子も抵抗という抵抗をしないし、こういう所がちょっとムカつく。なんで抵抗しないんだよ。

「おーじーちゃん」

そうやって小さい子をたしなめるように言う。俺、花子の何個上だと思ってんの?
花子の顔の横に置かれた自分の腕をぐっと下げると、一気に2人の距離が縮まる。そこでやっと花子も顔を逸らし、両手で俺の胸を押した。今更遅いって。

「やめて、ね、もうダメだよ」
「…今更だよね…嫌ならなんでこうやって来るの?」
「それは…おじちゃんが心配だから…」
「優しいね。でも俺はそんな花子に欲情してるけど」
「っ!」

俺の硬くなりつつある中心を押さえつければ、カッと花子の顔が赤く染まる。いつも飄々とした花子の、そんな顔はじめてみる。口角が上がるのも仕方ないよね。

「…俺の、こんななってるんだよ」
「やだ…おじちゃん…お願い、ダメだって…」

ぐっ、と俺の胸を押す力が強くなるけど、女子高生の力なんて屁でもない。なんかもう俺は楽しくなってきて、調子にのって腰をゆらゆらと動かした。擦れて気持ちがいいし、花子の焦る声も快感になる。俺はやっぱりとんだ変態野郎だ。

「も、もう、ほんとにっ」
「ねぇ、ほんっと、今更なんだよ…」
「っおじちゃん…?」
「何もかも遅いって…嫌ならもう、来なかったら、っこんなことにならなかったのに…」
「っう」

グッ、グッと腰を押せば、擬似的セックスのようで大変興奮する。花子の我慢する声も興奮材料にしかならない。これ、やばいなぁなんて頭の中の隅っこのほうで理性が呟くけど、もう止められそうにもない。