閉鎖空間、猫屋敷 | ナノ
最後におじちゃんの家に遊びに行ったのはいつだっただろう。
小学6年生のとき、バレンタインチョコをあげた記憶があるけれど、それからはパタリと行かなくなってしまった。最初は卒業式の練習や、中学校への入学準備、小学校最後の春休みということで友達と遊ぶ予定で埋まっていて行くことができなかった。中学校に入って、落ち着いたら遊びに行こう、そんなことを頭の済で考えながら、私は4月を迎えた。

だけど、自由な小学校と違って中学校はなにかと忙しかった。入学当初は勉強についていくのもやっとで、そんな中でも部活動に励み、更には親の勧めで塾にも通うようになった。そんなことをしていたら家に帰るのは毎日夕飯の時間になる。
私が入った部活動は休みの日も練習が有り、おじちゃんの家に行く暇なんかなかった。部活動がない日は塾や習い事に行かされる始末だ。薄情だけど、そんな毎日を過ごしているとおじちゃんのことを思い出すことも日に日になくなってしまった。
まぁ、お陰様で勉強はかなりできる方になったと思うけど。


そうやって充実した学校生活を送っていると、中学2年生の時に初めての告白をされた。一つ上の3年生の先輩。一年生のとき委員会が同じで、お世話になった人だった。
その人はとても優しくて、話していて楽しかったし、漫画の趣味も似ていた。委員会でもよく喋るのはその先輩だったので、普通に嬉しかったのを覚えている。同級生に背中を押されたこともあり、私はその先輩と付き合うことにした。

先輩とは沢山の思い出を作った。先輩が部活で試合がある時は絶対に見に行ったし、夏祭りも一緒に行ったし、お互いの家にも遊びに行った。映画も沢山見た。初めてのキスもこの先輩としたのだ。べろを絡ませる、ちょっとえっちなキスだって。私はさもそんな知識知りませんという風に振舞っていたので、先輩は優しく教えてくれた。私は先輩が大好きだった。だけど先輩がキスをしてくる度、頭のどこかでおじちゃんの顔が浮かんで、あの時の記憶が蘇る。いけないこと。あれは多分、あんまりよくないこと。勿論一線は超えていないけれど、その時は私はもうおじちゃんに汚されている…なんて、酷いことを考えていた。だから、純粋なふりをしていることにとても罪悪感を感じていた。

それから先輩とは1年ほどお付き合いをしたけれど、先輩が高校に入って好きな人が出来てしまったという理由で別れることになる。あっけないものだ。中学生の恋愛なんて所詮こんなものなのだ。
1ヶ月は引きずったけど、丁度その時に入りたい高校が見つかったこともあって、3年生は勉強に専念することにした。

それから半年経ち、部活動も引退して本格的に受験勉強を始めた私は、無事に第一志望の高校に合格することができた。
同じ高校に行けるようになった友達と手を取り合ってきゃあきゃあと騒いだ。あの時は嬉しかったなぁ。やっと受験が終わってホッとしたものだ。長い戦いだった。



その後友人と別れて高校を後にした私は、最寄りの駅とは別方向に向かっていた。「どこいくの?」という友達に「ちょっと知り合いの家に!」と答えて。
足取りは軽い。だって地図を見なくてもここがどこかわかる。

そう、私は昔住んでいたあの町の高校に春から通うのだ。