閉鎖空間、猫屋敷 | ナノ

花子が赤塚区を離れて、もう2年が過ぎた。幼かった花子もついに6年生で、つい先日、1年生とペアを組んで遠足に行ったばかりだ。5年でこんなに成長するんだなぁと、自分の手と1年生の手を見比べたのは記憶に新しい。1年生の手はとにかく小さかった。花子は私ももうお姉さんなのだ、と漠然と思う。だってもう、生理もはじまってるんだもの。体だけ大人になって、なんだか心が置いてけぼりの気分だった。

とはいえ、まだまだ彼女も小学生である。
大人からしてみればただのがきんちょ。しかしこんながきんちょの彼女にも、最近深刻な悩みがあった。

一松のことだ。
人間は、女の人と男の人が性交して、男の人が、しゃせいして、受精すると、妊娠する。保健の授業で習ったことだ。いわゆるエッチ。花子はテストに出るから、と必死で名称を覚えたけれど、同級生は「キモイ」「変態」とペンを投げていた。多感な時期である。
だけど、保健の先生は「とても大事なことなのよ。」と一生懸命説明してくれた。
あんまり真剣に聞くと友達に「花子はエッチ」とからかわれそうで、ノートに落書きをしながら先生の話しに耳を傾ける。テストに出る所は大事だけれど、先生のお話しはテストにはでないのだ。

先生が愛しあう…だの、触れ合う…だの、おっぱいだの膣だのペニスだの言う度に花子の脳内に浮かんだのは一松だ。

最近、一松からのスキンシップが激しい。
一松のことは好きだ。幼い頃から世話になっている自覚はあるし、スキンシップが激しいことが悩みだと言いつつも、まだ松野家に通っている。
一松は花子の胸を触ってくる。去年の夏なんか、ちょっとうたた寝をしていたらパンツの中に手を入れられたのだ。なんかこそばゆくて意識を浮上させたら、一松が股間を触っていた。一瞬、思考が停止した。あの時のことはまだ覚えているし、たぶん一生忘れないだろう。

幼い花子だが、一松のあの行為が普通のことじゃないことくらい、初めてされた時からわかっていた。わかっていたからどうすればいいかわからず、今もまだ気づかないふりをしている。正直少しだけ嫌だなと思った。くすぐったいし、変な空気になるし、多分一松は【勃起】している。全部わかっていた。だけど、一松のことを嫌いにはなれない。親に言うつもりも毛頭ない。一松を犯罪者にはしたくなかった。拒否してもっと変な空気にもなりたくない。だって、べつに一松のことを嫌いなわけじゃないのだ。私が慣れればいいだけ。たぶん、されるのも今だけ。いつかされなくなる。………たぶん。






…しかし、花子の気持ちとは裏腹に一松の行為はどんどんエスカレートしていった。
もう一松が何を考えているのかわからなくなってくる。だって、普段は普通なのだ。いつもの一松、昔とおなじ。不器用でやさしい私の大好きなおおきいおともだち、おじちゃん。
なのに、行為のときになるとまるで獣のようになる。少しだけ怖い。だって、今までずっと後ろから触られるだけだったのに、いつからか動物が交尾をするみたいに、ぐっ、ぐっと腰を揺らして、硬くなったおちんちんを当ててくる。もちろんお互い服は着ているけども……。私はどうすればいいのかわからなくて、ただただ天井を見たり、揺すられながら剥がれかけの壁紙をカリカリといじる。この間おじちゃんの顔は見れない。だって、別の人みたいなのだ。私はこんなおじちゃん、知らないよ。



行為が終わればいつものおじちゃんだ。すごくホッとする。できればいつもこのおじちゃんのままでいてほしい。でも言えない。もう、言うのが遅すぎた。無邪気に「やめてよー!」とは、もう言えない。あの時私が拒んでいたら、こんなことにはならなかったのかなぁ。