夢見る世界でおはよ | ナノ
「こんばんは、守」グランは名もない星の少年だった。無重力の世界で星に手を伸ばせば、星に触れる。静かな世界だった。ふわふわと、ゆらゆらと。永遠の夜を駆ければ、宙を漂う少年に触れた。呼吸はない。呼吸は、しない。少年の瞼を真っ白なグローブ越しに指で押し上げれば、濃褐色の瞳を見た。ぐるり、瞳がグランを捉える。「おはよう、ヒロト」キーパーグローブをはめた掌がグランの頬に触れた。「グランだよ、守」、うん、と守は微笑むと、再び瞳を閉じた。ねえ、守、起きて、もう夜だよ、ここはずっと。明けない夜もあるのだから。止まない雨はなくても。そっと瞼にくちづけをすれば、再び瞳が開かれた。グランの視線と絡んだ守のそれは、どこか儚くて、ふっと消えてしまいそうだった。「ヒロトにまた会えてうれしかった」たとえそれが一夜の夢でも。守は地下室の硝子の棺で眠っていたのだから。今日だけは、大気圏の外へと放り出された。今日だけは、今日だけは。諦めた表情でグランが笑った。ふわり、ゆらり。ふたりは只々、漂う。「今日が最後かもしれないね」「そんなことはないさ、きっとまた会える」静かなくちづけだった。たった5分の逢瀬でも、ふたりの気持ちは変わらなかった。自分が手を繋ぎ、唇を合わせるのはただ一人だけなのだと。11月1日、23時59分。もうすぐ15になる春を迎えてしまうね。だから、眠らなくては。冬が終わるまで。春を迎えても。二人は瞳を閉じた。

また目が覚める日まで、おやすみ。