愛だよ11 | ナノ

11風丸視点

気絶したように眠りについた円堂を静かに床に寝かせ、立ち上がる。
「く、くく……」
ひどく愉快だった。ついに円堂が、あの円堂が俺のものになったんだ。びちゃ、ぐちゃ。円堂の足元に転がる幼虫を靴の裏で踏み潰す。何度も、何度も、液体に濡れ跳ねる、円堂から産まれたそれを。
(気持ちが悪い)
俺に負の感情を抱いていない円堂を堕とすのは簡単なことだった。疲弊し、摩耗した心に少しの優しさを与えてやれば、すぐに信頼の全てを俺に預ける。
円堂は俺の言うこと全てを信じていたようだった。これで堕ちたことは確実だ。しかし、俺との子がこの虫であるということを信じ切っていたという事実が、どうしようもなく、気持ちが悪かった。きっと俺と円堂の子なら、もっと、これ以上ないほどに美しいはずだろう。
そうだ、円堂の子。円堂をこの手で殺せないのなら、せめて円堂の産んだものを殺そう。

ぐちゃり。何十、何百と床をのた打ち回るそれを、全てつぶし終わるまでにそう時間はかからなかった。足や服が円堂の子から飛び出た体液で汚れたことはさほど気にしない。俺は、円堂を殺したいほど愛していた。



そもそも俺が何をしていたかというと、それは簡単なことだった。よく言えば円堂を見守っていた、とでもいうのだろうか。要するにモニタールームで高みの見物をしていたのだが。
触手を放ち円堂が正気でいた最後の顔を堪能した俺は手早く円堂のいた部屋を出ると、モニタールームへと向かった。そしてそこで恐慌し、泣き叫び、よがる円堂をただひたすら傍観していた。
例の触手の繁殖に関する実験も兼ねていたため自分以外にも研究員が数人同席していたことを、俺は大して気にしていなかった。円堂の痴態を見つめている男たちの股間が膨れていることに気付くまでは。

恐らく奴らは死んではいないだろうが、きつく灸は据えておいた。円堂は俺だけのものだ、俺以外が円堂に欲情することも、円堂が俺以外を求めることも、許さない。
俺は昂った気持ちに動かされるまま、研究員を殴り、詰った。モニタールームにあった椅子もいくつか駄目にしてしまったが、奴らの自業自得ということにしておこう。どうせ俺のせいで繁殖実験もおじゃんだ。ここで研究員が動けなくなったとしても誰も気にしないだろう。そうだ、あいつらが悪いんだ。俺の円堂を、俺の円堂に……。
そこで俺は、自分の暴力的な心の闇が膨れ上がっていることと、そして俺の心は円堂に対する独占欲だけで満たされていることを知った。



いつかのように円堂の身体を洗い、自室のベッドへと寝かせる。そこには以前と変わらぬ愛情が確かにあった。いや、円堂への愛は深まるばかりか。
ベッドへ座り円堂の髪を撫ぜながら、その寝顔を眺める。いままでにないほど、落ち着きのある安らかな寝顔だった。
しばらくすると静かに円堂の瞼が上がり、澄んだ瞳の焦点が俺へと合う。ぱちぱちと数度瞬きをするとやっと俺を認識したようで、円堂は俺の名前を確かめるように呼ぶと、嬉しそうにはにかんだ。

「……子供はお前には会わせられないけれど、元気だよ」
子供は、と先に聞かれることがないよう、やさしく微笑みながら、安心させるように言う。俺が愛しているのは円堂だけだから、きっと円堂の妄想にも、育児ごっこにも長く付き合ってはいられないだろう。
だから、円堂が、俺だけを見るように。

「そっか、風丸が言うなら、信じるよ」
そう言った円堂の顔があまりに幸せそうで、俺は円堂が俺を愛してくれたという事実を改めてゆっくりと噛み締めた。

もう俺は、円堂の他には何もいらなかった。円堂が俺を愛してくれることが俺の幸せの全てだった。



***
わけがわからなくなってきた…