がたがたと体を震わせ狼狽する。気持ち悪い、吐きそうだ。地に横たわり動かなくなった触手を横目に、俺は重い体を引きずるようにして扉の方向へと移動しようとした。しかし体は思うように動かず、せいぜい数十センチ移動したところで俺は再び床へ倒れ伏した。 今すぐにここから出たい。助けて、誰か。 腹の苦しさと悲しみにより涙が頬を伝った瞬間に、扉が重い音を立てながらゆっくりと開いた。するりと部屋に入ってくる細めの体、動きに合わせて揺れる青の髪。 「かぜ、ま、る……う、っひ、く……」 「円堂、えんどう」 風丸は触手を踏みながら俺のもとへと歩みよると、倒れ動けないままの俺の上体を軽々と起こし、をぎゅうと抱きしめた。未だ火照った体に風丸の少し冷えた体温が心地よく、縋るようにして風丸を抱き返す。 助けに来てくれた、風丸は俺を助けにきてくれた。 俺は誰のせいでこんなことになったのかも忘れ、安堵により完全に風丸に心を許した。結局のところ、いつだって昔から俺を助けてくれるのは風丸なんだ。風丸だけ、なんだ。 風丸の掌が、俺を安心させるように頭を撫で、背中をさする。 「風丸、風丸」 止まることを知らない涙はこぼれ続けたが、風丸の名前を呼べば応えるように抱く力を強めるその腕に、じわりと心が温かくなった。尿や触手の体液で汚れているにも関わらず、風丸はそれを感じすらしないように俺の身体に触れる。こんなに汚されている俺であってもなお、風丸は俺を受け入れてくれる。いや、愛してくれているのか。 ぼんやりとした頭で考えた。もう、俺には風丸しかいない。俺のことを守ってくれるのも助けてくれるのも、きっと風丸だけだ。幸か不幸か俺は自分の思考が麻痺していることにも気付くことができなかった。だから、歯車が狂っていることにも、気付かない。 風丸しかいらない、風丸だけがいい。今はもう、肌に触れている体温だけが全てだった。(ここから出たいと苦しむより、風丸を愛することが俺の幸せなんだ) 「かぜまる、おれ、かぜまるしかいらない」 額を風丸の肩口に押し当て、涙声で呟く。 「だから、もう俺をおいてかないでくれ」 まるで、懇願するように。すると風丸は今までにないくらい腕の力を強めて俺を掻き抱いた。 「当り前だろう円堂、もう一生離さない」 俺は何にも気付かない。風丸の仄暗い笑みにも、自分の心が壊れてしまったことにも。 → |