ファンタジー2 | ナノ


次の日の昼、円堂は少しの食料と灯りに医療品、そして武器だけを荷物にまとめ宿を出た。もし言葉が通じなかったとしても、倒せば高額の懸賞金が手に入る。ドラゴンの皮膚は硬質であるために、普通の刃は通さない。
生憎円堂にはドラゴンの皮膚をも切り裂くという高価な武器を買う金などは持ち合わせていない。そのためいざというときに目や口を狙うしかない円堂が用意した武器は、毒を塗った吹き矢と火種、そして短剣のみだった。

出来るだけ、話し合おう。
ドラゴンと対峙するのは初めての円堂は、ついには辿りついた洞窟の前で、大きく一度だけ深呼吸をした。
出来るだけ話し合って、そして、この国で初めての人外の友となれたらいい。ドラゴンは自らの種族の言語のみならず、ヒトや動物の数々の言語も巧みに扱う。巨躯に比例する大きな脳は、人間を遥かに超える知能を持ち合わせていた。
ざりざりと音を立て土を踏みしめた円堂は、一歩、洞窟へと足を踏み入れた。先が見えない程に奥深く続く洞窟を目にした円堂は、ごくりと唾を飲み込むと、カンテラに火を灯し歩きだした。
「一歩でも足を踏み入れたら食い殺されるなんて、噂は誇張されるもんだなぁ」
暗闇をひとりで歩く孤独感をかき消すように、呟く。その瞬間、オオオ、と竜の啼く声が洞窟内に響き、円堂の心臓は大きく跳ねた。きっと目的の者が近いのだろう。円堂は確かに恐ろしさを感じていたが、その反面淡い期待も抱いていた。オスであれメスであれ、穏和であれ非道であれ、通じ合えることができますように。

それからどれほど歩いただろうか、数分かもしれない、数時間かもしれない。暗闇と孤独は円堂から時間の感覚を奪い去った。目の前に大きく広がるぽっかりと空いた穴のようなスペースからは、ドラゴンの息遣いや唸りが漏れ出し、いよいよこの奥に自分の求めていたそれがいるのであると円堂は悟った。
突然入ればハンターと思われ攻撃されてしまうのではないか。そう考えた円堂は、まず声をかけることにした。
「なあ、入ってもいいか?」
「…………」
円堂が強めに声を上げると、唸り声がぴたりと止む。どうやらこちらの様子を窺っているようだ。そう気付いた円堂は、さらに言葉を投げかけた。
「俺は円堂守。お前と話がしてみたくてここに来たんだ!」
「…………」
ずしん、と地鳴りが響く。ドラゴンの気配がほんの少しだけ移動したことに気付いた円堂は、入るからな!と腹から声を出すと、ゆっくりと、ドラゴンのいるスペースへ立ち入った。