手足をもいで泣いた日 | ナノ
攻めはグランになりました。



「もういやだ」
「うん」
「どうせみんな離れてく」
「円堂くん、」
「みんなサッカーしない俺になんて興味ないんだ」
「…、……」

駄々をこねる子供のような表情の円堂は陰鬱としている。グランは沈痛な面持ちで円堂を胸に抱きしめた。最早、言葉も出ない。グランは基山ヒロトとして、一人の人間として円堂守を愛している。決して折れない屈強な精神や真っ直ぐに人を見つめる澄んだ瞳は何よりも愛しかった。
しかし円堂はついに地へと、いやそのさらに下へと堕ちた。彼の友人や後輩たちチームメイトが次々と病院へ運ばれ、キャラバンを降りる日々に、円堂の心は煤けてしまったのだ。風丸がキャラバンを降りた翌日、屋上で一人雨に打たれる円堂をグランはそっと見つめていた。姉の残酷さと自分の不甲斐無さに顔をしかめ、そっと、そっと。
円堂は涙した。自分があまりに鈍感であったため仲間を失った。そしてサッカーをする資格のない、サッカーのできない自分をみんなはこんなにも簡単に置いて行こうとする。
止まらない涙は雨で流れた。しかし心の傷が洗い流されることはなかった。じくじくと膿んだ傷口がめりめりと音を立てて開いていく。
「誰でもいいから、助けて」
かすかな呟きに目を見開いたグランは、円堂のもとへと降り立つとその手を差し伸べた。「円堂くん、俺と一緒に行こうよ。」きっと幸せが待ってるから。


「俺の円堂くんを傷つけるなんて許せないな」
ぎり、ぎりり。グランは強く爪を噛んだ。多少血が滲んでもかまわない、きっと自分以上に彼は心を痛めているのだから。どうしたら彼は幸せになれる?どうしたら彼を幸せにできる?ぎり、ぎり。
ザ・ジェネシスのユニフォームに身を包んだ円堂は今日も一人で泣く。まるでおおきな子供のように声を上げて。もう何も信じない。誰も俺を助けてくれない。わあん、わあんと耳につく声で号泣する円堂をグランは抱きしめた。
「もう泣かないで円堂くん、きみのことは俺が助けてあげる。君は俺のことだけを信じてくれればいいんだ。ねえ、君の幸せってなんだい?」
少し、痩せただろうか。まだここに来て日は浅いのにそう感じるのは気のせいか。円堂はグランの腕の中で鼻をすすると、グランを見上げた。真っ直ぐな瞳は変わらないだろうか。グランは円堂の瞳を覗き込んだ。
(ああ、なんだ、やっぱり)
その瞳は黒く、きたなく、濁っていた。もう人が生きる世界なんて映しちゃいない。きっと今の円堂は自分のためだけに生きているのだ。
「ヒロト、全部忘れさせて」


つづきます