「お前、ひとりなのか?」 宇宙服の中からくぐもった声が聞こえる。俺と君は違う星の人のはずなのに君の言葉は俺に届く。心が溶かされてゆくようだった。 「うん、ひとりだよ」 「そっか、さびしいな」 「きみがいてくれたらひとりじゃないのになあ」 目をしばたかせた円堂くんは、一度俺の顔をしっかりと見ると再びそっか、と頷いた。 ゆらゆらと彼の体が揺れ、その脚がとんと地面を蹴った。無重力の世界で彼は簡単に飛んでゆく。俺は彼を追いかけることができなかった。 円堂くんは俺の星から消えた。俺はやはりひとりのままで、彼に見捨てられたことにむせび泣いた。 広大なる宇宙でたまたま出逢えて言葉が通じる運命があろうとも、愛しい彼は俺を選んでくれなかったのだ。 (せめて彼のあの目を近くで見たかったなあ) ぽろぽろと。ふわふわと。俺の涙は球体となって輝いて宙を浮く。まるでビー玉のように、 「ヒロト、ヒロト」 「ん……えんどう、くん…?」 「大丈夫か?悲しい夢でも見たのか?」 円堂くんに体を揺すられ目を覚ます。円堂くんに指摘され頬に手を当てると、濡れた感触がした。 ぼんやりとしたまま上体を起こす。彼は心配そうに俺の様子を窺っていた。円堂くんの瞳が俺だけを見ている。先程の夢がフラッシュバックして涙が出そうになった。 「ねえ、円堂くん」 「ん?」 円堂の瞳を見つめ返す。彼の瞳はまるで星が散りばめられたようにきらきらと輝いている。 彼の手を取りぎゅっと握る。彼は抵抗することなくされるがままにしていた。あたたかい、彼の大きな手のひらは、とても。 「もしもこの広い宇宙でひとりぼっちの宇宙人と出会ったら、どうする?」 「うーん……」 涙を拭うことすらせず円堂くんの手を握りしめた俺の突然の質問に、円堂くんは考え込む。こんなくだらないことでも本気でこたえようとしてくれる彼が愛おしかった。 そうだな、と彼の弾んだ声が聞こえる。 「いーっぱい仲間をつれてきて、そいつが寂しくないようにしてやるかなあ、みんなでわいわいやってさ!」 そんで、サッカーする! ぎゅう、と彼が俺の手を強く握り返してくれた。心臓が跳ねる。 じゃあ彼は、夢の中の彼は、俺を見捨てた訳じゃなくて、 「……ト、ヒロト!」 「うわっ!?」 がばっ。なんて効果音がつきそうなほどに勢いよく飛び起きた。 「どうしたんだヒロト、いやな夢でも見たのか?」 「えっ……」 言われてみれば頬が濡れたような感触がする。…夢の中で夢を見ていたということだろうか。円堂くんに「ううん、幸せな夢」と涙を流したまま笑顔で返しながら、布団の中で腿をギリギリとつねると鋭い痛みが走った。 (これは現実かあ…) 一抹の寂しさを感じる。最初の夢の中での円堂くんの行動の本意を教えてくれた彼は夢の中の人物なのだ。俯いて指先が白くなるほど拳を握る。 「ね、円堂くん」 「ん?」 「もしもこの広い宇宙でひとりぼっちの宇宙人と出会ったらどうする?」 まるで甘えるように小首を傾げて訪ねると、円堂くんは俺に突然ぎゅうと抱き付いた。 うわあ、と上ずった声が漏れる。えんどうくんが、なんで、きゅうに。 まるで俺をなだめるように、円堂くんの大きなてのひらが俺の背をぽんぽんと叩く。 「俺がそいつを地球に連れ帰っていっぱい幸せにしてやる」 そうだろ、ヒロト、と。強い眼差しをこちらに向けているも、その顔は耳まで赤くて。 その姿があまりに格好よくて、可愛らしくて、熱くなった耳に唇を押し当てる。ひいい、と裏返った変声期前の高い声が耳に響いた。 どうやら俺は円堂くんに幸せにしてもらえる権利があるらしい。なんとなく、夢の中の円堂くんの答えの方が友人としてはしっくりきた気がするが、思ってもみない彼のこたえに俺は舞い上がっていた。 「ところで円堂くん、きみ、なんで俺の部屋にいるんだい?」 不思議なことに、円堂くんは俺が目覚める前から俺のベッドのそばにいたのだ。しかし俺の言葉に円堂くんは、むすっとしたような、照れたような顔をして言った。 「なんでって、ねぼけてるのか?俺たち、つ、付き合ってるからだろっ! かあっと顔に血が上る。やはり俺は現実を一番愛していた。 捕捉? 昨夜がヒロトと円堂くんの初体験 ヒロトは寝ぼけてるだけ |