君を探して幾星霜 | ナノ
転生もの



「守、ひとつだけ、約束してくれないかな。」
ヒロトとソファで並んで座っていたら、唐突にヒロトは口を開いた。その声色があまりに真剣だったから、俺は体ごとヒロトを向いて、どうしたんだ、と聞いた。
「あのね、守。オレ、守と恋人になれてとても幸せなんだ。ずっと幸せでいたいんだ。だから、もしオレが死んでも、きみは俺の恋人でいてくれないかい。ずっと一緒に、いてくれないかい。」
これから、そう、ずっと、世界が朽ちるその日まで。

そう言い切ったヒロトに俺は少し気圧された。でも確かにヒロトのことを愛しているし、ずっと一緒にいたいとも感じた。だからしっかりと頷いて、指切りをした。ヒロトも、俺が死んでも俺を愛し続けてくれるよう。生まれ変わっても俺を愛してくれるよう。

約束を交わした数ヵ月後、ヒロトは事故で死んだ。




君を探して幾星霜



「あ。」
それは数学の授業中だった。俺は唐突に"基山ヒロト"という人間の名前を思い出して、思わず声が漏れてしまった。
幸い他のクラスメイトはそのことに気付かなかったようだ。きょろきょろとあたりを見回すと、赤い髪の少年が視界に入った。その少年の名前は、基山ヒロトといった。
しかし俺が思い出した"基山ヒロト"はクラスメイトである彼とは別人だった。鋭い翡翠色の瞳や鮮やかで細い赤の髪、血色の悪い肌の色だとか筋肉が薄くついた細めの体型。それはどちらの基山ヒロトも同じで、外観はまったくの瓜二つだった。

俺が思い出したのは多分、いわゆる"前世"というやつだろう。なんとなくだったけれども、それは直感でわかった。一瞬で嵐のように脳内にかけめぐったそれは、ひとりの男の一生の記憶だった。その男は円堂守というらしい。サッカーが大好きで、サッカーで世界一にもなって、そして、「基山ヒロト」と愛し合っていた。その基山ヒロトは若いうちに事故で亡くなり、それでも円堂守は基山ヒロトを心の中で愛し続け、そして、壮年のうちにその記憶はぷつりと途絶えていた。
壮大な物語のようなその記憶は確かに自分のものではなかった。膨大な人生の記録に俺の若く幼い脳は衝撃を受け、頭がガンガンと痛む。
ひどく痛む頭を軽く押さえつつ、脳内に焼きついて離れない言葉があることに気がついた。

『もしオレが死んでも、きみは俺の恋人でいてくれないかい。ずっと一緒に、いてくれないかい。』
俺の前世の人間が恋人と交わした最後の約束。その言葉はすとんと俺の胸の中に落ちてきた。どうやら、俺は前世の俺の、そして前世の恋人の願いを叶えることができそうだ。


俺の名前は円堂守という。そして幸か不幸か、俺はクラスメイトの基山ヒロトに恋心を抱いていた。



授業が終わり教室が騒がしくなる。相も変わらず頭痛は続いたままで、体を冷やしたくなり窓際に近付いた。換気のために開かれた窓から、冬の冷たい風が流れてくる。後ろからはクラスメイトの寒いという声が聞こえた。窓から顔を突き出し風を受ける。風の冷たさが心地よくて、心なしか頭痛も和らいだ気がした。
「円堂くん、大丈夫?」
突然後ろから声がかかる。振り向くと、ヒロトが心配そうな顔をしてこちらを見ている。
「顔色が悪いよ、保健室行く?」
穏やかな声で尋ねられ、思わずドキリとした。俺はこういう、ヒロトの優しいところが好きだった。俺は体をしっかりとヒロトに向け、へらりと笑う。
「そうか?別になんともないぜ!」
ヒロトに心配をかけたくはなかった。ヒロトの優しさにつけこんで甘えることは、自分の正義感とプライドが許さなかった。
心配そうなヒロトをよそ目に、授業始まっちまうぞーと言って笑い、自分の席に戻る。
珍しく授業開始の5分前に席についてしまった俺は、暇を持て余す。



ガチ円堂さんとノンケ気弱ヒロトの転生モノです(注:あくまでヒロ円)
連載かなぁと思って書き始めたりなんだりしたけど結局終わりがイマイチ思いついていないものです、これは暇が出来たら書き進めそうな気がします…