「やあ緑川、久しぶり」 にこり、笑うヒロトの顔色は最後に見た日と変わらない。あれからもう半年か、俺にとってはまだ数日も経っていないように思えた。 「ついに化けて出たな」 いつかこの日が来るだろうと思っていた。だから、驚くことはなかった。ふわふわしている、その感覚はきっと恐らく直感だ。蛇のような目つきも、肌の色も、何も変わらない。触らぬ神に祟りなし、俺はお前の墓参りにすら行かなかったのに。 それは事故死だった、らしい。詳しくは聞かなかった。聞いたってヒロトが死んだことに変わりはなかったからだ。そして、あいつが死ぬ間際まで少なからず俺を憎んでいたであろうことも、変わらないだろう。 円堂と俺が付き合い始めたのは、ヒロトが死ぬ三日前だった。鈍感だった円堂が俺に気を許したのは、そう、ヒロトのおかげだった。見え隠れする、円堂へ向けられる下心。俺はただ単にそれらから円堂を守っただけだった。そしていつの間にか、円堂の俺に対する感情は恋心になったのだと、付き合い始めたその日に本人から聞いた。 それからたったの三日だ。ヒロトが死んで、円堂は泣いた。「俺のせいだ」、泣き腫らした目で俺に告げると、そのまま姿を消した。もう会わない、たった6文字のメールを残して。しかしきっと、俺と円堂の関係に感づいていた周りは、俺に真実を告げることはないだろう。だから俺は、今目の前にいるこの古い付き合いの死人が俺を祟りに来るまで、真実を求めることはしなかった。 俺は挑発的な笑みを浮かべるヒロトを睨みあげた。 「何をしに来た」 赤い髪が揺れる。ふふ、と、抑えきれない笑いがヒロトの口から洩れた。 「べつに緑川を祟りにきたわけじゃないさ。ただ、お前ががあまりに俺の死に対して興味がないのが面白くなくてね」 表情が歪むのを自覚した。こいつはこんなやつじゃなかったはずなのに。円堂と出会ってからヒロトは変わってしまった、確実に、悪い方向へと。 ヒロトは、聞いてもいないことをぺらぺらと喋り出した。自分の死についてだ、それは俺が求めていた真実でもあるのだが。 「ふふ、俺が事故死だって。世の中面白いね、幽霊より生きた人間の方が恐ろしい。中学サッカー日本代表のうちの一人が自殺だなんて、ばれたら大目玉だもの。揉み消す大人は汚いな」 開いた口が塞がらない。自殺、ヒロトが? 「まさか俺に円堂を取られたから、なんて言わないよな」 「半分正解、半分ハズレ」 緑の瞳が細まる。ひどい吐き気がした、今すぐにでもトイレに駆け込んで胃の中のものを戻したくなった。円堂の「俺のせい」という言葉は、俺たちのせいだという意味だったのか。だから、もう会わないだなんて、そういう。 ヒロトの体は透けてすらいなくて、今この時間はひどく現実味がない。本当はこいつは生きているのではないか、そう思えるほどに。しかし半年前、俺は確かに死に化粧をされ花で満たされた棺に納まっているこいつを見たのだ。 「俺が円堂くんの目の前で死ねば円堂くんはもう俺のことを忘れられない、俺のことを嫌いになれない。そんなふうになった円堂くんをこっちの世界に連れて来れば一石二鳥じゃないか、ねえ緑川」 「おまえ、この半年、なにを」 半年たって、やっと俺のところへ姿を現したヒロトはいやに幸せそうで。まさか、まさか。お前はどこでどうやって自殺したんだ。今までお前はどこにいたんだ。俺を祟らないのなら誰を祟るんだ、ヒロト。 青ざめた俺の顔を一瞥したヒロトは、表情をなくすと、さいごに一言だけ残して、消えた。 「円堂くんと一緒になるのは俺だ、お前はずっとここで苦しんでいればいい」 次の日、一本の電話が入った。円堂は死んだ。 ヒロトが円堂くんの目の前で自殺してから円堂くんを祟って祟って殺す話です。というか死ネタとか書いたことないので難しすぎて爆死しましたすみません…!やはり経験を積まなければなりませんね、難しいものです。精一杯頑張ったのでお見逃し下さい(笑) それではユウ様、リクエストありがとうございました!失礼いたします! |