思わず、せつない、と感じた。 俺は軍人でありサッカープレイヤーではない。円堂守により80年後の未来に蔓延した危険思想は人々を弱体化させた。いち軍人としてそれは許すまじきものであり、世界をあるべき姿に戻すために円堂守を排除しようとしていた。 それがこのざまだ。俺も彼の言葉にとりつかれてしまったというのだろうか。否、そうではない。彼のあの言葉は呪文などではなかったのだ。 俺は何故忘れていたのだろう。過去に仲間がいたことを。今も俺の後ろには仲間がいるということを。円堂守は、非科学的な話ではあるが、魔法使いのような人間だった。たった数十分前までは彼の苦しむ顔を見て愉悦すら抱いていたというのに。何故だろうか、彼の笑顔は俺の心をとかしつくす。 「本当に強くならなきゃいけないのはここじゃないかな。」 そう言って二度、自分の胸を叩いた彼を見て、俺の凍った心はやわらかな風の吹く草原のようになったのではなかと感じた。彼の心、言葉はまるで熱い炎のようでもあり、暖かな太陽のようでもあった。 今まで躍起になって排除しようと、殺してもいいとさえ思っていた相手が、なぜこんなにも好ましく思えるのだろうか。 俺は今日の、たった一時間で、どれだけ変わることができただろう。 円堂守との出来事を思い返し、小さな声で呟く。 「なかま」 いつか背を合わせて戦い、笑い合った者たちのことを思い出す。あの頃の俺は笑えていた。楽しかった。これからそんな日々が訪れるだろうか。 「えんどう、まもる」 握れなかった手にいつか触れてみたかった。この感情が尊敬なのか友愛なのか、はたまた情愛なのか、俺には全くわからなかったが、一度でいい、円堂守と、一人の人間として話をしてみたかった。 「こころ」 きっと自分はこれから厳しい処罰を受ける。しかし全て終わって、円堂守の言葉を胸に生きていこう。そう思った。 自分の胸元に拳を当てる。そしてとんとん、と二度、軽く叩く。大事なのは、心。 「あいたい」 胸元に当てていた拳を一度開いてから、そのまま服をぎゅうと掴む。胸が痛かった。心が痛かった。たった少し言葉を交わしただけで、様々なものを教えてくれた円堂守。 しかし、そんな彼に会うことはもうできないのだろう。俺はこの時代の人間ではないのだから。それがただただ、せつなかった。 |