はなぢ | ナノ


ぼたぼたと鼻から血が垂れてくる。バダップがまず感じたのは歓びだった。
「バダップ!?大丈夫か!」
駆け寄ってくるその影は紛れもなくバダップ求めたその人のものだ。
(円堂、守)
バダップは袖口で顔に付着した血を拭い「問題ない」とだけ答えた。
片膝をついた状態から立ち上がると、小走りで近寄ってきた、自分より僅かばかり頭の位置の低い円堂を見下ろした。
「円堂、守…」
「え、ちょ、おい、バダップ!」
バダップが次に感じたのは痛みだ。まるで脳が潰されてゆくかのように頭に激しい痛みを感じたバダップは、徐々に目の前が白んでゆくことに気付いた。目の奥の痛みに瞳を閉じたバダップは、そのまま重力に身を任せた。

(えんどう、まもる)


もたれるように倒れ混んできたその体を力強く支えたた円堂は、自分の衣服に血が付着するのも厭わずその肩を揺らした。声をかけども一向に目を覚ます気配のないバダップだが、突然の来訪者に円堂は目を丸くするばかりだった。
困ったような表情できょろきょろと周囲を見渡すが、日の沈みきった鉄塔広場には人影は見当たらない。円堂は一度深呼吸をすると、ふんっと掛け声を上げバダップを背負った。
ずしりと身体全体に重力がかかる。いくら鍛えている円堂と言えど、自分より身長の高いバダップを背負って歩くのは一苦労だ。円堂はベンチに放ってあったショルダーバッグを掴むと小走りで家へと向かった。

円堂が玄関の前に立つと、家の明かりがひとつもついていないことに気がついた。そうだ、今日は両親が出かけているのだ、確か結婚記念日だったか。連休だし今日から旅行してきちゃうわね、と自らの母親から今朝方突然飛び出た言葉を思い出した円堂は、ポストから鍵を取ると玄関扉の鍵を開けた。今日親がいないのは、円堂にとって逆に都合が良かった。
円堂の息は上がり、体温が上昇しているため身体中も汗ばんでいる。全ては未だ目を覚まさないバダップのせいだ。しかしもう二度と会えないと思っていた相手であるだけに、体の奥底から嬉しさが込み上げた。

家に上がった円堂はまず、二階へと上がり自室のベッドへバダップを寝かせた。横たえられたバダップの顔色は、悪くはない。バッグの中からタオルを取り出した円堂はバダップの顔や首についた血液をそれで拭きとると、扉を静かに閉め部屋を出た。
とりあえずバダップが目覚めるまでにシャワーを浴びよう。そう思い立った円堂はひとしきりシャワーを浴びた後、脱衣所でバダップの鼻血がついたジャージと睨み合っていた。なんとなく、これを洗ってはいけない気がしたのだ。
しばらく血痕を見たのち、円堂はそれを洗濯機には入れずに腕の中へ抱えた。スウェットを着た円堂は、髪を拭くのもなおざりに、再び二階へと上がった。

円堂が自室に戻ると、バダップはベッドの上で静かに座っていた。円堂はジャージをハンガーにかけると、それを壁にかけバダップへと声をかけた。
「目、覚めたのか」
笑顔で水の入ったペットボトルを渡すと、バダップは申し訳なくなり迷惑をかけた、と低い声で言った。円堂は気にするな、と言いながらバダップの隣へと座る。ベッドのスプリングが軋んで音を立てた。
「ところで、どうしてまたこっちに?っていうかなんで倒れたんだ?」
首を傾げる円堂に、バダップは苦虫を噛み潰したような顔になった。その反応を見た円堂は、さらに不思議そうな顔をし、どうしたんだと改めて疑問を投げかけた。

「…無理にタイムリープを実行した。少々負担が大きかっただけだ」
相変わらずの単調な声色ではあるが、円堂はそこから後ろめたさのような感情を感じ取った。バダップと円堂はたった一度、しかも、ものの二時間程度しか対顔したことはない。しかしその間だけでも十分に理解できる人間性はあった。バダップは人と目を合わせて話をする。
それが今は、その気配が欠片もない。バダップの視線は真っ直ぐに壁を向いている。隣にいる円堂に見向きもしない。円堂は眉を寄せた。

「なんでそんな無理したんだよ」
「円堂守に、会いたかった」
予想外の、答え。責めるように問うた返事に、円堂は顔が赤くなるのを感じた。何故かはわからないけれど、自分のためだけにここへ来たということが、嬉しくて。体に負担をかけてまで会いに来てくれた、だなんて。
バダップはここで初めて円堂の顔を見ると、微笑んだ。「会いたかった」、ともう一度繰り返される。この男はこんなにも人間らしかっただろうか、円堂は驚いた表情でバダップを見つめた。
「最後に、一度でいいから、会いたかった」
浅黒いバダップの手が円堂の手に重なった。円堂はえもいわれぬ気持ちになり、顔を歪めた。壁にかかったジャージに付着したバダップの血液がどうしようもなく愛おしくて。

(彼は、またいつか未来へ帰ってしまう)




これ…何小説なんでしょう…とりあえずもう二度と円堂に会えないだろうと思って無理矢理会いに来たバダップさんとそんなバダップさんにときめいちゃう守の話…ですか?(笑)
なんか守が血フェチみたいなよくわかんないことになっておりますが実はこれ、結構時間かかりました(笑)
というわけでバダ円です、リクエストありがとうございました!