空が青いなぁ。やっと肌寒さが抜けぽかぽかと温かくなり出した春の陽の下、俺はそんなことを考えながらぼんやりと頭上に広がる晴天を眺めていた。 ここは屋上、しかも今は授業中だ。青春漫画なんかでよく見るシチュエーションだが、別に俺は不良ぶっているわけではない。無理矢理引っ張られて来ただけだ、俺の腿の上に頭を置いているこの男に。 「なぁ南雲ー」 「あ?」 「なにがしたいんだ?」 「……別に」 南雲は二人きりになると寡黙になる。そのことがなんとなくむず痒くて、心がざわついた。 膝枕を強制されたのは何分前だろうか、そろそろ足が痺れ始めていた。金網に背を預け、視線を下げる。瞼を閉じた南雲はこんな態勢でも充分すぎるほどにリラックスしているようだ。長い睫毛が影を作っているのを見た俺は、南雲の瞼の上に手のひらを軽く置いた。 すると南雲は腕を伸ばし俺の手首を掴む。退けられた手の下から、変わった形の瞳孔を持つくすんだ黄の瞳が覗いた。 「お前が何したいんだよ」 「別に!」 眉間に皺を寄せている南雲の表情に、自然と頬の筋肉が緩む。怒っているのとも違う、いつもの挑戦的な笑みとも違う、こういった表情は俺の前でしか見せないことを知っていたからだ。 いつからこんな関係になったのかはよく覚えていない。なんとなく南雲と話していたら、なんとなく南雲が優しくて。それがなんだか嬉しくて、よく南雲と一緒にいるようになって。 ある日の帰り道、人気のない住宅街を二人で歩いていたら俺の手に南雲の手が触れた。びっくりして顔を見れば、その横顔がこれまでに見たことがないくらいに恰好良くて、そのまま手のひらをぎゅうと握られた瞬間、頬に血が集まったことだけは覚えている。 それからはなあなあな関係が続いている。これが友情の延長なのか、はたまた南雲が俺に何か他の特別な感情を抱いているのかはよくわからなかった。俺自身はもう南雲に対する感情への答えを出していたのだけれど。 南雲が地面に手を付きゆっくりと起き上った。少しむっとしたような表情でこちらを向くと、腰を上げないまま尻を引きずって俺の横に移動すると、俺と同じように金網に背を預けた。 俺は南雲の顔を見たけれど、南雲は顔も視線も真っ直ぐに前を向いていた。 「なぐも、はるや」 「なんだよ」 「や、いい名前だなあって。お前は今日みたいな青空の綺麗な日に生まれたのかなとか思っ、」 言い終わる直前にぐっと肘のあたりを掴まれて引き寄せられた。態勢を崩した俺は南雲の膝の上に崩れるように倒れた。驚いた俺は体を起こそうとしたけれど、南雲の膝の上に頭を乗せる状態で仰向けに押さえつけられた。 目を白黒させていると、だんだんと南雲の顔が近づいてきていることに気付いた。これは、まさか。しかし何故だか逃げる気は起きなかった。 視界が青空から南雲の顔に切り替わる。俺は瞼を下ろすと南雲を受け入れた。唇に柔らかい感触が走る。気持ち悪さはかけらも無くて、心は幸福感で満たされていた。唇が合わさる直前に聞いた南雲のえんどう、という声がとても心に響いて。 「お前が好きだ」 「うん、俺も」 唇を離した南雲は曲げていた腰を軽く伸ばすと俺の瞳を見つめながら言った。俺が頷きながら返事をすると一瞬驚いたような顔をして、また俺から視線を外す。膝の上からずっと南雲の顔を眺めていたら、南雲は俺のバンダナをぐっと目元までずり下ろし俺の視界を塞いだ。 俺はそれが照れ隠しだとわかっていたから、何も言わずにひとつ、笑みを零した。 温かい春の陽気にまどろみ始めた頃、授業終了のチャイムが鳴り響いた。それでも俺はまだ、ここから動きたくなかった。 南円甘々ということで、甘いのが上手く書けない私ですが、今回のは結構甘くできたと思います!(笑)どうも山崎です。 南円初挑戦だったのでドキドキしました!南円はシチュエーションが難しいので勝手に守と同じ学校にしてしまいましたすみません…それではリクエストありがとうございました、失礼します! |