堪えた | ナノ

「お前ばっかりずるい」
俺はここのところ毎日ヒロトの部屋に押し掛けてはぐちぐちと文句を垂れていた。
ジェネシスのキャプテンだったヒロトが以前から円堂と深いかかわりを持っていたことは知っている。ヒロトの円堂に対する執着心は友情の域を超えていた。俺と二人きりになるたびに円堂への想いをぶちまけるその姿が憎くて仕方がなかった。
俺だって円堂が好きなのに。誰からも愛されてそれでもそのことを鼻にかけることもなく(というか気付かず、か。)真っ直ぐに生きているキャプテンが、愛おしくてたまらないのに。
「ずるいよ、お前は」
責めるように言ってもヒロトは何も答えない。僅かに開いた窓から入り込んだ風がさらさらとその赤い髪を揺らした。
俺の方が早く円堂と出会ったのに。お前だってあいつの心に深い傷を負わせたのに。なんで今、お前はあいつの隣で幸せそうに笑うんだ。なんであいつはお前の隣で嬉しそうに笑うんだ。円堂は俺と話すことすら稀なのに、ずるい。

「緑川、お前は一回ちゃんと円堂くんと話をしたほうがいいんじゃないか」

冷めきった声だった。俺は勢いよく顔を上げ、ヒロトを見る。無表情。ヒロトがこんな顔をすることがあるのかと思うほどに現実味のない空間だった。
「どういう、ことだよ……!」
表情が歪むのを自覚する。ヒロトの思惑はわからなかったが、俺には嫌味にしか聞こえなかった。ヒロトと円堂が想い合っていることなんてとうの昔に知っている。そして俺の意中の相手が円堂であるのをヒロトが知っている、ということも、分かっている。
認めたくない。認めたくなんてない。得意の諺を思い浮かべることすらできないほどに俺の心は荒れていた。

「どういうって、そのまま言葉の通りさ」
ギリリと奥歯を噛み締める。嫉妬が渦巻いて爆発しそうだった。俺は無言でヒロトを睨み上げ立ち上がると、ヒロトから視線を外して扉のノブに手をかけた。この部屋から今すぐに飛び出したい。怒りでぐるぐると目が回って吐き気がした。
「円堂くんと話をするべきだよ。お前にその勇気があるのならね」
ヒロトは挑発するように付け加え、先と同じことをもう一度言った。まるで心を見透かすかのように真っ直ぐ俺の顔を見るヒロトを一瞥し、扉を開けた。悔しい。お前ばっかり幸せで、俺は、……俺は。
背後のヒロトが動く気配はない。お互い口も開かずに制止する。ヒロトのことは良い友人だと思っていたが、今日ばかりは忌々しくて仕方がなかった。口を開けば激昂してしまいそうで、俺は深呼吸をして口を開いた。

「もう、ここには来ないことにするよ」
バタン。わざと大きな音を立てて扉を閉めた。廊下の冷たい空気に晒された俺は大きく息を吐く。
「……円堂」
目を瞑りこみ上げてくる想いを必死に耐えた。どれだけ想っても、もう手遅れなのだから。

(怨恨を堪えた)