ふたりで地獄に落ちようか3 | ナノ

ひとしきり泣き終わると、オレと円堂くんはベッドに腰掛け手を重ね合わせた。恥ずかしくて目を合わせられなかったけれど、今自分が幸せであるということだけは確かだった。
「よりを戻したい」
円堂くんが鼻声でぽつりと呟いた。オレは低い声でうん、とだけ返す。喋るとまた嗚咽が漏れてしまいそうで、それしか言えなかった。
こんなことになるなんて思わなかった。円堂くんと会って過去を断ち切ろうと思っていただけだったのに。
円堂くんの手をぎゅうと握り、彼の目元に唇を押しつける。その目は真っ赤に腫れ上がっていて、きっと自分も同じようになっているのだろうと思った。
そのまま彼の唇に口付ける。少し酒の臭いがする。今日のことは酒の勢いだったということにしておこう、いつか彼の気が変わっても惨めな思いをしないよう。それでもオレは円堂くんを愛し続けているのだけれど。

円堂くんをベッドに押し倒すと、彼は慌ててオレを押し返そうとする。
「ちょ、せめて風呂…!」
「円堂くん、愛してるよ」
彼の言葉に重ねるように改めて想いを告げ、まだ何か言いたそうなその口を唇で塞ぐ。もう今更止めることはできなかった。
唇を塞ぎながら円堂くんの服を脱がせていく。唇を離し首にTシャツを通し、彼の身体を眺める。相変わらずの引き締まった体は、彼がまだサッカーを諦めていないことを体現しているかのようだった。
下着ごとジーンズを足に通し彼を全裸にすると、自身の服も脱ごうとワイシャツのボタンに手をかける。すると円堂くんは俺がやる、と手を伸ばしボタンを一つ一つ外してくれた。彼がそうしてくれている間に自分でベルトを外し、スラックスを脱ぎ捨てる。彼がボタンを外し終えると、ワイシャツも脱ぎくしゃくしゃのままベッドの下に落とした。

舌を絡め合い、身体を愛撫する。胸や脇、腿に触れると円堂くんの身体がぴくぴくと揺れて、まだあの頃の敏感さは失われていないようだった。
あれ以来恋人も作らなかったからコンドームやローションを持ち合わせていないため、引き出しに転がっていたワセリンを使用することにした。
指と円堂くんのアナルにワセリンを塗りたくると、指を二本入れてそこを押し開く。
「うっ…く……!」
彼もここを使うのは相当久々のようで、苦しそうな声が上がる。気遣いながらも指をゆっくりと動かし、位置を覚えている前立腺をゆるく刺激する。そこをゆるく引っ掻くように押すと、円堂くんの息が荒くなり出し、苦しそうな声もだんだんと艶を帯びたものに変化していく。
大分解れて来たそこに指を三本入れて軽く出し入れすると、すぐに指を引き抜く。そして自分のものを軽く扱くと、円堂くんのアナルにそれを押し付けた。
円堂くんは驚いた顔をしてこちらを見上げている。自分でも性急すぎるということは分かっていた。それでも。
「いいよね、円堂くん」
「ヒロ、ト…」
「もう、自分に素直になっても、いいんだよね」
くしゃりと顔が歪む。ぼろぼろと涙が溢れ出てきて、止めることができなかった。円堂くんの健康的に焼けた肌にぽつりぽつりと涙が落ちる。こんな時に恰好が悪いと思ったけれど、まるで円堂くんへの想いと一緒に溢れ出てくるようで、止めたいとも思わなかった。

「んっ…ぁ、うああ…あっ、はぁ、」
ぐっと腰を押し付けると自分のものが円堂くんの中へと入ってゆく。昔に比べて随分ときつくなったそこは、それでもやはり円堂くんの中だという感覚がして気持ちがいい。身体もだけど、そうではない。なによりも心が幸福に満たされて気持ちがよかった。
円堂くんも大して痛みはないようで、気持ちよさそうな顔をしている。もうこの人と身体を交えることはないのだろうと思っていたから、今彼の体温を感じていられる事がただ嬉しかった。
円堂くんが中の質量に慣れたところで、オレは腰を動かし始める。
「ヒロト、ヒロトっ、あっ、ふ…」
必死に名前を呼んでくれる円堂くんが愛しい。もう絶対に彼の心を離さない。オレが幸せにしてあげなきゃ。オレじゃなきゃだめなんだ。
円堂くんと別れてからは動物のように腰を振る姿が馬鹿らしいだなんて思っていた時期もあったけれど、今オレと彼がしているこの行為はまるで神聖な儀式のようだ、なんて思ってしまう。
「円堂くん、円堂くんっ…!」
名前を呼び合いながら腰を振る。円堂くんとオレの腹の間にある彼のものはもう硬く張り詰めていて、中もぎゅうぎゅうと締め付けるような動きをしている。まだ終わりたくなんてなかったけれど、限界が近づいていることが察せられた。
オレは円堂くんのペニスを掴むと上下に扱く。彼の声が高く大きくなり、腰の動きも早まる。
「ヒロ、ト、あっ、あああっ!」
「ん…くっ、円堂、くん…!」
円堂くんの身体を抱きしめると、奥の深いところで達する。円堂くんも腹の間に精液を散らし、お互いの身体を汚した。


円堂くんの微かな喘ぎと、はあはあと荒い息をする音だけが部屋に響く。余韻から抜け出すと円堂くんの中から自身を抜き、ティッシュペーパーを数枚取った。
汚れを適当に拭うと、円堂くんの横に倒れこむように寝転ぶ。円堂くんの息も大分落ち着いたようだった。
「ヒロト」
「ん?」
「俺、お前と一生添い遂げたい」
「…!……うん、」
驚いた。彼から一生、だなんて言葉が飛び出すだなんて。ドライな性格からは想像がつかなかった。
円堂くんの言葉に胸を締め付けられて、また涙腺が緩みそうになる。円堂くんを抱きしめると、うん、うんと何度も相槌を打つ。オレも、オレもなんだ。オレだって円堂くんとずっと一緒がいいんだ。円堂くんと一緒に生涯を閉じたいんだ。例え重いと言われたってかまわなかったけれど、言いたい言葉は喉に引っかかって何も出てきてくれなかった。



順番にシャワーを浴び、円堂くんにオレの服を貸すと電気を消してベッドにもぐりこむ。円堂くんと別れた後に買い替えたシングルサイズのベッドは男二人で寝るにはきつかったけれど、それでもかまわなかった。
「ヒロトがどんどん駄目になっていく俺のこと愛してくれているのかがわからなかったんだ」
ひどく眠たげな声で円堂くんが呟く。何故あの時オレと別れたのか、ということなのだろう。あの時不安だったのはオレだけじゃなかったんだ。オレの態度も円堂くんを不安にさせていて、だから冷めきった空気になってしまったんだ。あの時気付いていれば、擦れ違うこともなかったのだろう。
「大丈夫だよ、オレはずっと君を愛しているから」
円堂くんの髪を撫ぜながら優しく囁く。オレの言葉を聞いて安心したように眠りに落ちた円堂くんを見つめる。円堂くんの全てが愛おしかった。
「なんであの時手放しちゃったのかな」
それでも彼はオレの手元に戻ってきてくれたのだけれど。いや、オレが彼の手元に戻ったのだろうか。どちらにせよ、きっとこれがオレのあるべき姿なのだろうと思った。きっと円堂くんがいなければオレは一人の人間ですらないのだろう。
(…後で緑川と姉さんに礼を言わなきゃな)
今日までにどれだけ迷惑をかけただろうか。あの二人の悲しむ顔や怒った顔は幾度となく見てきた。誠心誠意礼をして、久々に彼女らの笑った顔が見たかった。

円堂くんのすうすうという寝息が耳に心地よく響く。今この部屋はオレと彼の二人だけの世界だった。いっそこのまま世界から消えてしまっても、オレは幸せだろう。自然と顔が緩んで笑みが漏れる。今この瞬間に世界の終わりがくればいいと、そう思った。そうして彼の隣で、二人で死ねるなら。
「…それでもかまわないさ。君と一緒なら死すら恐れない。地獄に落ちたってかまわないんだよ」
呟きは闇に溶けて消えた。



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わお様
1000Hitリクエストありがとうございました、少々遅くなりましたが幸せを願うの復縁話です。ご期待に添えているかどうかはわかりませんが精一杯書きましたのでよろしければお受け取りください(笑)
それでは失礼します!