愛だよ6 | ナノ



6風丸視点

円堂を犯してから、ひどく気分がよかった。
円堂の目が覚めたのは夜中の三時を回ったころだっただろうか。事が終わったのが、それから一時間ほど経ってから。寝るに寝られない時間だと考えた俺は、気絶した円堂に毛布をかけると久々に部屋を出た。
早めの朝食を摂り、適当に時間を潰す。数時間書斎を漁り、飽きた俺は外に出ることにした。

この研究所は広大な敷地を有している。屋内はもちろんのこと、屋外も例外ではない。目前にはサッカーグラウンドが広がっている。昼過ぎの太陽が頭上に照り、俺は久々の日光の眩しさに目を細めた。
他のダークエンペラーズの面々は、飽きもせずサッカーの特訓をしている。俺と同じよう研崎の所有する研究所に自室を持ち寝泊まりしているため、廊下なんかですれ違うことも多々ある。
どうやら雷門との一戦で誰かを持ち帰ったのは俺だけらしく、今朝も「物好きだな」などと声をかけられた。
地下に自室を持っているのは俺だけだ。我らがダークエンペラーズが勝った暁に円堂を監禁するという計画は、当初から俺の脳内で描いていたものだった。そのため、わざわざ地下の一角に部屋を借りた。
円堂を誰にも触れさせたくない。見せたくない。全ては俺の独占欲から来るものだった。

染岡たちと軽く会話を交わし、サッカーボールを蹴る。それは円堂たちと共に戦っていたころとは全く違う、破壊活動を目的とするものだったが、俺はそれで満足だった。
もう、円堂の求めたありのままの美しい世界などは存在しない。これから世界は大きく変わる。日本だけでなく世界中がエイリア石に支配されるのだ。それは俺たちではなく馬鹿な大人たちの役目だが、それももう関係のないことだった。
俺は俺の世界を築き上げる。外界と完全に遮断された、円堂と二人きりの世界だ。あの地下の一室で一生を終えてもいい。円堂は誰にも渡さない。
傍から見れば異常とも言えるであろうこの愛憎は、もう誰にも止めることはできないだろう。


日もすっかり暮れた。久々に染岡と食事を摂ることにした俺は、トレーに乗せた夕食を染岡の部屋に運び込んだ。
和気あいあいとした空気はあるはずもない、馴れ合うこともない。重苦しい空気ではあるが、しかし約一年で培ったそれなりの友情は、闇に堕ちようが途切れることなく続いていた。
俺も染岡も以前ほど喋らなくはなったものの、なんとなく染岡と話がしたいと思ったのだ。

俺も染岡も表情を変えることすらなく、質素な夕食を口に含みながらぽつぽつと会話を交わす。そして、いつの間にか話題は円堂のことになった。
「お前は円堂をどうしたいんだ」
そう言った表情は、なんとなく闇に堕ちる以前の染岡を彷彿とさせた。染岡は円堂に対し父や兄のように接していたから、やはり情は捨て切れていないのだろうと感じた。
「円堂はお前には渡さないぜ」
絶対にな、と声を低くして威嚇するように言い放ち俺は席を立つ。少々の残飯の残った皿をトレーに戻し、染岡に片付けておいてくれと頼むと染岡の部屋を後にした。

「俺はな染岡、お前にすら嫉妬していたんだぜ」
長く続く廊下を歩きながらひとり呟く。
そうだ、俺は闇に堕ちるまでもなく、一年以上前からずっと薄汚れた醜い嫉妬と欲望の塊だったのだ。
そのことを再認識すると、俺は早く円堂に会いたくなった。
目を覚ましただろうか。苦しんでいるだろうか。円堂の姿を想像するだけで、心が晴れ渡るようだ。
俺は足早に階段を駆け下りて、円堂の待つ部屋へと向かうのだった。