ヒロトも円堂もあまり性格がよろしくないです。 もう、オレも円堂くんも、昔のような純粋な子供ではなくなってしまったのだろう。 いいかげん、薄々気づいていたことがあった。 きっと円堂くんはオレへの興味がなくなってしまったのだろう。 同じベッドで寝ていても、きっと明日の朝にはもういない。今まで散々かわいがってきたが、こういうときに、ああ、円堂くんはやはりオレと同じ、雄なのだ、と思った。 寝転がったまま顔を横に向けて、眠る円堂くんに目をやれば、少し苦しそうにしている。悪い夢でも見ているのだろうか。 窓から漏れる月明かりが机の上に置いてあったワイングラスに反射した。 最近は酒を飲んでセックスをする、それだけの関係になってしまっていた。昔のように腹を割って話すわけでもない。当たり障りのない話をぽつぽつとして、すぐベッドになだれ込み獣のように交わる。それだけだ。 プロになる。円堂くんは中学生のころ、オレにそう話してくれたことがあった。しかし現実は上手くいかないものだ。決して円堂くんの実力がなかったわけではない。高校生のころに怪我をしてしまった。その怪我が円堂くんの選手生命を絶った。そして、円堂くんの心を殺してしまった。 円堂くんは目に見えて荒れていったわけではない。しかし、少しずつ彼の心は崩れていってしまったのだろう。昔のような快活な笑顔はほとんど見れなくなり、どこにでもいるような真面目な青年となってしまった。 中学生のころから円堂くんが好きだった。決してゲイだったわけではない。誰よりも明るくて、優しくて、強い円堂くんが好きだった。オレが世界で一番円堂くんのことを愛している、そう思っていた。 紆余曲折を経てオレと円堂くんは付き合うことになった。中学生のころは楽しかった。高校生になっても、楽しかった。円堂くんの怪我を気遣いながらも、それでもいろいろなことが新鮮で、まだ自分たちが世界で一番幸せだと思っていた。 円堂くんと共にいることが何よりの幸福であり、自分が世界で一番の幸せだという思い込み。 オレと円堂くんの関係は、大学に進学したあたりから破綻していった。 精悍になった顔つき、落ち着いた態度、それは中学生のころの円堂くんとは全く違うものだった。オレが好きだったのは誰よりも明るくて、優しくて・・・。そんな円堂くんの面影が、いま、どこにあるというのだろうか。 お互い離れた大学に通っていたため、会う機会も自然と減った。一応まだ交際しているのだから、定期的に電話やメールはしていたが、それもだんだんと減っていった。 いまでは、たまに会って、酒を飲んで、まぐわうだけ。昔は背徳的だと感じて後ろめたかった行為も、今ではなにも感じない。惰性で付き合っているだけのように感じてしまう。円堂くんから愛を感じられない。オレ自身が円堂くんを愛しているのかわからない。きっともう、世界で一番円堂くんを愛しているのはオレではない。 横にいた円堂くんがわずかに身じろいで目を開いた。意識が覚醒したばかりでぼんやりと虚ろな瞳は天井を向いたままで、口元だけが僅かに動いた。 「なあ、俺たち、もう…。」 円堂くんが言わんとしていることはすぐにわかった。ぼんやりとしたままの円堂くんの精気は薄く、以前のような強い気は感じられなかった。しかし、月明かりがわずかに当たり薄く輝いているようにも見えるその姿は、儚げに見えた。 「円堂くん、オレ達ってやっぱり繋がってるのかな。」 優しく語りかけると、怪訝な顔をしてこちらに顔を向けた円堂くんは、すぐにはっとして目を見開いた。 オレは上体を起こして円堂くんの頬に軽く手で触れた。 「オレもきっと、円堂くんと同じことを考えているよ。」 まさか引きとめてくれるなんて思ったわけじゃないよね。円堂くんの耳元に顔を引き寄せながら囁くと、円堂くんはぐっと何かをこらえるような表情をした。しかしすぐに顔の筋肉の緊張を解いて無表情になり、ああ、と低い声で呟いた。 円堂くんから少し体を離すと、円堂くんはすぐに緩やかな動きでベッドから抜け出した。ああ、これで、おしまいだ。 オレは円堂くんの手首を掴むと、彼を見つめた。 「円堂くん、愛してたよ。幸せになってね。」 円堂くんは相変わらず無表情だったが、軽く頷くようにして、「お前もな、ヒロト」と返してくれた。 それからオレは円堂くんが服を着てこの部屋を出ていくまでを、ベッドの上でずっと眺めていた。オレも円堂くんも、一度も口を開くことはなかった。円堂くんは部屋を出る直前、一瞬こちらを一瞥した。その表情は怒っているようにも見えたし、悲しそうにも見えた。もしかしたら無表情のままだったかもしれない。 オレ以外の人間が誰もいないこの部屋は、広く感じるようでもあったし、今まで通りだったようにも思えた。 ばたりとベッドに寝転んで、さっきまで円堂くんが寝ていたあたりに指を触れた。ベッドのシーツはまだわずかに円堂くんの体温を残していて、オレは思わずシーツを抱きしめた。 不思議と涙は出てこなくて、ただただ、全てが終わったんだ、という実感だけがあった。それは悲しいものであったし、とてもじゃないが嬉しいだとかすっきりしただとかそういう感情は湧いてこなかった。しかし、やはり自らの頬に触れてみても、湿った感触は指に残らなかった。 (円堂くんが、泣いてなければいいなあ。) もう彼の恋人という名目は失われたが、それでもやはり彼のことは気がかりだった。 彼と友達のような関係に戻ることは不可能だろうが、心の片隅で、少しでいいから想わせてほしかった。 オレじゃ円堂くんを幸せにすることができなかった。オレじゃ役者不足だった。だから、せめて、誰か。 誰かが、彼を心の底から幸せにしてあげてほしい。 ただただ、そう願った。 4の情報見て、えっ監督ですかと思って書いたやつですが守は24歳になっても14歳のころのままの性格でいてほしいです。明るくて誰にでも愛される24歳。ステキじゃないですか! |