独占したいの2 | ナノ

5

「円堂くん、一緒にお弁当食べない?」
思い立ったが吉日。ヒロトと円堂のクラスは違うものだったが、その日の昼休み、ヒロトは円堂の教室へと足を運んだ。
ざわざわとした教室の中、円堂は豪炎寺と机をくっつけ、昼食をとる準備をしているところだった。円堂は突然の誘いに首を傾げ、どうかしたのか、と尋ねてくる。
意味もなく誘うのでは不自然だと思い、理由という名の言い訳は用意してあった。
「ちょっと、いままでのことで話があって。」
ヒロトが表情を消してそう言えば、円堂も真剣な面持ちになり、こくりと頷いた。

屋上につくまでの間、円堂は黙ってヒロトの右後ろを歩いていた。ヒロトがちらりと円堂を見遣れば、その表情は硬いようで、ヒロトは、ああ、今までの俺との思い出は円堂くんにとっていやな思い出なんだ、と考えた。
そんなことを思っていれば二人はもう屋上へと続く扉の前にいて、ヒロトはゆっくりとそのドアノブを回した。
静かに扉を開こうと思っても、錆びたドアノブは耳に付く音を大きくたてた。
ヒロトは円堂を屋上に招き入れてからできるだけ音が立たないように扉を閉める。円堂はヒロトを見つめて、言葉を待っていた。

目の前の相手が一向に口を開かないもどかしさに、円堂は切りだした。
「ヒロト、それで、話って…」
「嘘なんだ。」
ヒロトの言葉に円堂は目を丸くする。
「え、」
「いままでのことで話があるっていうのは、嘘。俺はただ円堂くんと二人で話がしてみたかっただけなんだ。ごめんね。」



6

言い切ったヒロトに、円堂はさらにぽかんとする。数秒たって言葉の意味を理解したようで、ほっとした表情を浮かべた円堂は、「もー、なんだよぉ。」とへにゃへにゃと言った。
自分で正直に暴露したにも関わらず、嫌われるのではないかと怯えの交じった表情で円堂を見つめるヒロトであったが、円堂がニカッといつものように笑うと、その心配もかき消えたようで落ち着いた表情に戻った。
「ただ話したいだけならそう言ってくれればよかったのに、なんかあったかと思って心配したんだぞ!」

ヒロトは、ああ、やっぱり円堂くんが好きだなぁ、と、そう感じた。
騙したことを怒るでもなく、逆に心配さえしてくれる。彼の博愛精神は今に始まったことではないが、それでも一瞬だけ自分が彼の特別になれたような、そんな気がした。


7


ヒロトと円堂は他愛もない話を続けた。ヒロトにとってそれは何よりも至福の時であった。
「明日も一緒にお弁当食べてもいいかな、二人で。」
ヒロトは前々から考えていたことを切りだした。ふたりで、という部分を強調する。少しだけの時間でもいいから、円堂とふたりきりになりたかったのだ。
「もちろんいいぜ!」
円堂の返事は予想した通りのもので、ヒロトはそれを聞きにこりと笑った。ヒロトの笑顔を見た円堂もにかりと笑う。
「ありがとう」
そう言うと、おう!と威勢のいい声が返ってきた。
こうして、ヒロトは昼休みの45分間、円堂を独占することに成功したのだった。


8

それからというものヒロトは昼になると毎日円堂の教室へと出向き円堂を迎えに行った。そして二人きりで昼食を取りながら談笑する。
ヒロトは円堂の生温い世界に浸ることが嫌いではなかった。円堂から発せられる言葉の全てに幸せを感じていた。部活のこと、勉強のこと、友人のこと、そして転校したばかりのヒロトを気遣う言葉。円堂の話すことはどれもがヒロトにとっては新鮮であり、喜びであった。そして今日に至るのである。

ヒロトは幸せを感じつつも、当初の目的を果たそうという思いを忘れることはなかった。
円堂の気を引き、好意を抱かせる。鈍感な円堂に対しては中々に難しいものだ。しかも、ただでさえ性別という大きな壁が立ちはだかっている。
しかしヒロトにとって性別などは大した問題ではなかった。異性愛者ですら言うではないか。「愛に性別は関係ない」、と。恋は壁があるほど燃えるのだろう。


9

現在に至るまでヒロトと円堂に進展はない。
ヒロトはどうやって円堂を自分のものにしようかと模索しているのだが、なかなかに思いつかないものだった。円堂の鈍感さはお墨付きだ。遠まわしに好意をアピールしたところで、円堂がそれに気付いてくれる可能性は限りなく低かった。
そこでヒロトが思いついたことは、円堂に自分を惚れさせる、ということだった。



ここまで書いて放置