独占したいの1 | ナノ
1

基山ヒロトがエイリア学園から開放されてからは、外界との関わりも自然と増えた。エイリア学園でのメンバーと共に、普通の中学校にも通いだした。
ヒロトは頭が良い上に根が優しく、冗談も言え、気遣いの人だ。そして何より、顔が良い。
そんな彼に惹かれる女子は当然多かった。転校早々、彼の人気はとても高いものとなっていった。周りの男子たちもそれを嫉むことはない。ありのままを受け入れて、その上でヒロトを自分達の輪の中に入れてくれる。ヒロトは、とても恵まれた少年となったのだ。

しかし完璧かと思われる彼にも問題はあった。

「円堂くん、今日もお昼ご飯一緒に食べてもいいかな。」

おう、と元気よく返された声に、ヒロトは自分の胸が高鳴るのを感じた。

彼の問題点。それは、男である円堂守に恋をしているということだ。


2

転入した普通の中学校…私立雷門中学は、実に平和であった。なにもかもが嵐のように過ぎ去ったあの頃とは違う。とてもゆっくりとした時間の流れを持っている。
その、世界から切り離されたような緩やかな場所で、円堂と昼食をとること。それがヒロトの日課であった。

「それでさ、やっぱりこの特訓は方法を変えたほうがいいと思うんだよなあ、」
昼食風景はいつも変わらない。開放された屋上で、ふたりきりで弁当を広げる。基本的に円堂が喋りつづけ、ヒロトは微笑みながらそれに相槌を打つ。
大好きな円堂の傍らで小振りな弁当箱の中身をつつき、ヒロトはしみじみと思った。
しあわせ、だなあ

以前のヒロトの幸福とは父親の役に立つことだった。たとえ道具としてでも、少しでも自分に愛情を注いでくれた父のためにサッカーボールを蹴りつづけた。
仲間などいない。友人などいない。只々、ボールを蹴り上げる、それだけだった。


3

円堂と再会した時、ヒロトはまるで乳白色の世界に浸っているような気分になった。

再会を誓ったあの日からせいぜい数ヶ月しか経っていない。それでもヒロトにとってその時間はとても永いものと感じていた。もちろん、姉である瞳子と水入らずで過ごす時間は心身共に癒されるものであったが、やはり少なからず円堂のことが気になっていた。
恐らく、ヒロトにとっては、胸を張って友人と言える初めての人間が円堂であった。
最初は、円堂が周りから寄せられている信頼というものに興味を持った。円堂守がどのような人物で、なぜここまで他人に好かれるのか。
好奇心。ただ、それだけで近づいた。そしていつからか、気が付けば円堂の人柄に惚れていた。健気で純粋で、まるで世界中に散りばめられた悪意のかけらさえ知らないような顔をして話す。否、悪意を知ってなお、笑いつづけているのだ。まるで、この世の総ての闇を取り払うかのように。


4

円堂に対する友情が恋心に変わったのはいつごろだっただろうか。ヒロトは思い返す。
はっきりとした自覚は、雷門中学に転入してからだった。
しかし、前々から自分が抱いているものがただの友情ではないことは薄々気づいていた。
ヒロトは円堂の全てに"特別"を感じていた。例えばそれは屈託なく笑う姿であった。敵であった自分の背をずっと支えてくれていた、大きく暖かい手であった。
円堂の優しさがヒロトの心を解かし、生温い世界へと放り込んだ。雷門への転入で円堂と再会した時、改めてヒロトは円堂のその優しさを実感した。そしてその優しさを求めた。

傍から見れば温かい世界。しかしそれはヒロトにとっては生温いものだった。円堂の優しさとはすべての世界に対し平等である。ヒロトが求めるものは唯一だった。円堂の唯一無二の何かになること。親友では足りない。円堂の恋人にること。それがヒロトにとって安直に考えた唯一無二であった。



書き始め処女作で死ぬほど下手すぎて読み返して泣けてきたので続きが書けなくなってしまった小説です(笑)
元拍手お礼連載