晴天ジェラシー | ナノ
『俺は不動を信じる』
不動明王はライオコット島を一人散策しながらあの日の円堂守の言葉を反芻した。
目の前を大型トラックが通りすぎて、排気ガスを吸い込む。少しむせながらも歩き続ける。

通り掛かったオープンカフェでカップルが仲睦まじく談笑しているのが視界に入った。男は身振り手振り、大きな動作をしながら話していた。もう片方は口元に手をやって笑っている。しかしその二人の手は、小ぶりなテーブルの上でしっかりと握られていた。ふたりの肌や髪の色は異なっていた。
不動はそれを一瞥すると、踵を返しイナズマジャパンの宿泊所への道を歩む。頭上に広がる空は晴れやかだが、不動の心は曇っていた。
人種も国籍も違うもの同士というのは大きな障害や壁が立ちはだかっているのではないだろうか。そう考えていた不動ではあるが、ここ最近イタリアのフィディオ・アルデナと我がチームのキャプテン円堂守が親しくしていることが少々気になっていた。
二人は人種は違えどすくすくと友情を育んでいるようだ。他国との交流は歓迎すべきことではあるのだろうが、それは不動にとって喜ばしくないことであった。
「俺は不動を信じる、ねぇ」
不動は再び円堂の言葉を思い返した。その言葉は不動に大きな衝撃を与えた。初めて与えられた言葉だった。あの円堂が口から出任せを言うなんてことは想像できない。そう思い信用するに値したその言葉は、さらに不動に幸福感を与えた。
だからこそ、フィディオと円堂の友情に嫉妬を覚えたのであった。

人種やなんやと言う前に自分たちは同性である。嫉妬もなにもない。円堂が自分に振り向くなどという淡い幻想を抱くこともない。
それ以前に自分と円堂は友人と言えるかすら危うい関係なのだ。
不動はそう考えると、軽く頭を振った。
「はっ、馬鹿馬鹿しい」
いつの間にか止めていた足を無理やりに動かす。何故だか帰って円堂と顔を合わせると思うとうしろめたかった。

そして不動は先ほどまで考えていたことを改めて思い返す。
「…嫉妬?同性?」
何故今まで気付かなかったのだろうか。何故円堂が他人と仲良くしているだけで嫉妬心など燃やしているのだろうか。
その答えを見つけてしまった不動は笑いを堪えきれなかった。くつくつと肩を揺らしながら、歩調を早める。周りの目など気にしてはいられなかった。
「そうか、そうだったのか」
普段だらしなく歩くだけの不動であるが、早歩きですら我慢ならなくなり、ついには走りだす。
宿へ帰り円堂に会ったら、小突いてやらないと気が済まない。不動はくたびれたスポーツシューズでコンクリートの道路を蹴る。今日は珍しく雲一つない晴天だった。





なんとなくぼんやり考えていたら恋心を自覚しちゃったあきおみたいな