愛だよ1 | ナノ
1円堂視点



微かな物音で目が覚めた。身体中が余すところなくずきずきと痛む。視界には灰色の天井が映るだけで、ここがどこだかは全く分からない。周囲を見回そうと思い体を起こそうとしても、痛みと疲労で動かすことができなかった。
「ぐっ……」
体が軋んでうめき声が漏れると、俺の体に影が落ちた。

「おはよう、円堂」
「風、丸…?」

髪を下ろしたままの風丸が俺を見下ろしている。着ている服はユニフォームではなく軽装だったが、光のない瞳や歪んだ表情は俺の幼馴染で親友の風丸一郎太のものではなかった。
そうか、俺は負けたのか。目が覚めて早々その事実が心に重くのしかかる。俺たちの住む街を、日本を守りきれなかったことも、風丸たちを救えなかったことも悔しかった。
風丸の目は暗く濁っていて、もう俺たちは昔のようには戻れないのだろうと直感的に思った。
正直、不安だ。ここがどこだかわからないということも、これから何をされるかもわからないということも。
心細げに風丸を見上げると、風丸はずいとペットボトルを差し出し、背中を支えて起こしてくれた。
「大丈夫か?」
「う、うん、ありがとな」
風丸の顔はあまり心配そうではなかったけど、心遣いが嬉しくて口からは感謝の言葉がこぼれた。もとはと言えば風丸たちのせいで動けないほどになったのだけれども。
ペットボトルの蓋を開けて、生温い水を口に含む。乾いた喉が潤って、少しだけ体の痛みが楽になった気分だ。

「なあ、ここはどこなんだ?」
目が覚めて一番に思ったことを聞く。風丸はフッと笑って俺の目を見つめてきた。嫌な予感がして、風丸から体を離そうとすると、風丸は俺の背中を支えていた手をさっと引いてしまった。そのまま俺は後ろに倒れこんでしまった。ベッドがあまり柔らかくないせいで体に衝撃が走る。涙目になるほど体が痛かった。

そのまま、風丸が笑顔で俺を組み敷いてきた。腕が押さえつけられて力を込めても動かすことができない。痛む体で必死にもがいても、風丸はさらに体重をかけてくる。
「円堂、お前は本当にかわいいな」
「なに、するんだ、風丸っ…!」
「抵抗したら豪炎寺たちがどうなっても知らないぞ」
「……!」
豪炎寺という名前を聞いたとたん、俺は全身の力を抜いた。
そうだ。みんなは、今どうしているんだ。風丸の口ぶりじゃあ、捕えられてしまっているのか。俺が今ここで抵抗してしまったら、みんながどうなってしまうかわからない。
「いい子だ、円堂」
風丸はぞっとするほど綺麗な笑みを浮かべていた。それは今まで俺が見たことのない顔で、身体中が寒気に襲われ肌が粟立つ。それでも俺は、自分が今から何をされるのかが全く分からなかった。

風丸がユニフォームの中に手を入れてきた。試合が終わってからそのまま着ているこのユニフォームは、汗は乾いてこそいるがやはり汗と泥の臭いがきつく、体臭も同じようであったため、風丸に触れさせることはためらわれた。しかし風丸は臭いなど気にしない様子で、俺の腹を優しく撫でてきた。
その手つきのせいでひどくくすぐったく、反射的に体がびくりとした。
「ちょ、うわっ!」
一気にユニフォームを脱がせられる。風丸の手つきがいやに手慣れていて嫌だった。自分の知らない風丸が目の前にいる。風丸が遠く感じる。こんな状況でも、そのことに寂しさを感じてしまう。
「円堂、集中しろよ」
思いもよらぬ場所にぬるりとした感触が走って、腰が跳ねる。風丸が、俺の、ちくび、を、舐めている。
「か、風丸?」
わけもわからず名前を呼ぶことしかできない。そんなところを舐めて、何が楽しいんだろう。

「ん…ぅ……」
そのまま胸を攻められ続けて数分経つ。ぢゅっと吸われたり、軽く歯を立てられたりすると腰のあたりががじんじんするような気がした。もう片方も指ではさんだり引っ掻いたりされると、なんだかよくわからない気分になった。コリコリと乳首を挟んで刺激されて、思わず息が荒くなる。
「あっ」
一度大きく声が出てしまい、あまりに恥ずかしくなったため両手で口を塞ぐ。風丸が何をしたいのかが未だにわからない。子供みたいに胸を吸ったりなんかして、母親でも恋しいのだろうか。しかしそんなことをされるだけで俺は腰のあたりがむずむずする。もう、わけがわからない。

涙目になって口を塞いでいると、風丸が胸から顔と手を離して俺の顔を見上げた。
「円堂、手、どけろよ」
その言葉に従いたくなくて、声を出したくなくて、手をそのままにしていると、風丸がもう一度俺の名前を強く呼んだ。その暗い瞳を見つめても感情を読み取ることができない。でも風丸に反抗するのは怖かった。仲間たちは、俺が守らなきゃ。
ゆっくりと手を口から離し、ベッドのシーツをぎゅっと握る。

風丸の手が降りていき、ユニフォームのハーフパンツを下げられる。慌てて風丸の手を掴もうとして、やめた。抵抗してもどうにもならないことはもう分かりきっている。そのかわり、ずっと気になっていたことを聞いた。
「なあ、何してるんだ?今からなにするんだ?」
「は、」
風丸はここにきて初めて、笑顔以外の表情を見せた。あまりに驚いたらしく口を開けたまま固まっている。一体いまから何をしようとしていたのだろうか。
風丸がぼんやりとしながらお前今までわかってなかったのか、と呟いた。俺もわけがわからずぽかんとしてしまって、妙な空気が漂う。数十秒二人でそのまま見つめ合っていたが、先に動き出したのは風丸だった。
「円堂」
名前を呼ばれ、はっとする。やっとこれからされることがわかるのだ。それにしても、今日はやけに名前を呼ばれている気がする。

「いまから俺とお前がすることは」
一呼吸置かれる。風丸と目を合わせると、風丸はまた今までの笑顔に戻る。時が流れるのがやけに遅く感じた。もう、逃げられない。そう思った。

「セックスだよ、円堂」