家に帰ると部屋の明かりがついていた。
出て行くときに電気は確認して行ったから、誰かがつけたということだ。
目が覚めたんだわ…!!
逸る気持ちを抑えながら、家の扉を開ける。
良かった。鍵はかけられたままだ。
万が一の可能性である、空き巣が入って電気をつけたという可能性ではなさそうだ。
靴も置いていったままだった。
そのまま中へと入り、リビングのドアの前で深呼吸をする。
いきなり襲われたらどうしよう。
怖い人だったらどうしよう。
でも悪い人だったら、金品盗んで出てっているはずだから、きっとそこまで悪い人じゃない、はず。
そうであって欲しい。
意を決して扉を開けると、あの男の人はテーブルにつっぷして眠っていた。
肩透かしを喰らったが、ほっと一息吐く。
見る限り、食べてる途中で眠ってしまったようだ。
テーブルの上を見ると、この3日間作り溜めておいた料理がほとんど食べつくされていた。
この大食らいといい、食べながら寝るところといい、何から何まで本当に似ている。
寝顔を見ると、涙が乾いた跡があった。
椅子から布団まで運ぶ力はないので、とりあえず毛布だけかけておいた。
音を極力立てないように気をつけながら、食器を流しへと運ぶ。
夜ご飯の支度はまだ大丈夫だし、ここで仕事でもしておこうかしら。そうね。そうしましょう。
幸い、今日仕事を受注したばかりで、手元の鞄にノートパソコンも資料も全部入っていた。
カタカタとキーボードを叩く音と、辞書をめくる音だけが響く。
と、不意に唸り声が聞こえた。
「親父・・・ルフィ・・・」
苦しそうに唸った後、彼はそう呟いた。
ドキリとした。
まさか、ね・・・?
たまたま似た言葉を聞き間違えたんだろう。
もしかしたら言葉の一部かもしれないし。
そう自分を誤魔化しながらも、本当に本物じゃないかという思いがまた湧き上がってきた。
その考えを振り切るために、仕事に集中した。
ひと段落ついたところで、大きく伸びをする。
体中がパキパキと鳴った。
時計を見ると、もう17時だった。
なかなか程よいタイミングで手を止めたらしい。
そろそろ夕飯の支度をしなくては・・・
机の上を片付けて、冷蔵庫の中を確認する。
生姜焼き、と…あ、から揚げも出来るな。サラダは生ハムと…
エースに似ているからか、無意識に肉料理を選んでしまった自分に苦笑する。
重症ね、これは。
さっさと起きて現実に戻してくれないかしら…
自分で自分のほっぺたを抓って、気合を入れ直す。
大食らいな彼のために大量生産せねばならないのだから、頑張らないと!
よしっ出来たわ!
料理を全て作り終わって、後は盛り付けだと手を止めた瞬間だった。
「なあ、何作ってんだ?」
後ろから声をかけられた。
更に盛ることに夢中になっていた私はあまりそのことに疑問を抱かなかった。
「生姜焼きとから揚げと…生ハムサラダ」
「おお!美味そう!」
「彩りとか無視だ…け、どおっ!?」
普通に返事を返してしまったが、ふと我に返って慌てて振り向く。
「え、あ、悪ぃ!!今声かけちゃマズかったか?」
「・・・」
声まで似ているなんて、もはや詐欺だ。
エースが生きて動いているかと錯覚していまいそうだ。
目を見開いて固まってしまった私に、目の前の人は戸惑っていた。
「え、俺、そんなに驚かせちまったのか?」
駄目だ。泣きそうだ。
慌ててフライパンに視線を戻した。
平静に。冷静に。落ち着いて。深呼吸よ。
「ううん。…とりあえず、話はご飯を食べながらにしましょう。そこの大皿取ってくれる?」
「お、おう」
準備をしている間はお互いのことには触れず、皿の場所を指示したり、テーブルに運んで貰ったりした。
その間に心が落ち着いて、涙を引っ込めることに成功した。
全部準備が整って、向かい合わせで座る。
「いただきます」
「…いただきます」
手を合わせて挨拶したのには驚いたが、躊躇わずフォークを手に取ったのを見て、やっぱり日本人ではないなと思った。
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