運命の導きに    [ 4/9 ]

目が覚めると、自分の状況とかここは何処だとかの疑問の前に、目の前にある物体にまず目が行ってしまった。


「ぬい、ぐるみか…?」


ふわふわとした薄茶色の毛のくまのぬいぐるみだった。
その円らな瞳が自分を見下ろしている。


このくまのぬいぐるみはなかなかに大きかった。
多分、立ち上がった時の俺の腰くらいまであるんじゃないかと思う。


そのくまを呆気に取られながら見ていると、くまのお腹に何か紙のようなものが貼ってあった。
手を伸ばしてそれをくまから奪い、目を通す。

前半は、ほとんど見たことのない文字ばかりだった。共通文字とも、古代文字とも違う。
どこかの民族の文字だろうか。
文字に関する知識なんて俺にはないから、どうしたものかと思っていると、後半からいきなり読める文字へと変わった。

どちらが読めるか分からないから、両方書いたというところだろうか。
となると、読めない部分は同じことが書いてあるのだろう。

それは何故俺がここに寝ているのかという経緯が簡単にかかれていた。

家に帰ったら俺が庭に倒れていたこと。
状態から病気ではなく気絶だと判断したこと。
不都合がある場合も考えて、医者には診せていないこと。

本人も良く分かっていないのか、淡々と状況を説明する文章だけが続いていた。



「そういえば、ここ何処だ?」


改めて周りを見ると、どうみてものどかな民家だった。
他の情報がないかと辺りを見回すと、いろんな所に同じようなメモが貼ってあった。
ひとつは、トイレやお風呂の場所など、この家の見取り図を記したもの。
ひとつは、着替えについて記したもの。
ひとつは、この部屋にあるものなら好きに使って良いというもの。

枕元には水とメモが置いてあって、飲める水であることが書かれていた。
言われてみれば酷く喉が渇いていたため、有難く飲ませてもらった。

水を飲んでひとごこちついたところで、自分の状況を振り返ってみる。
まずはここに来る前に何をしていたか、だが…





「嘘だろ…」





そうだった。確かに俺は、かけがえのない弟の腕の中で息絶えたのだった。

仲間殺しをした黒ひげを追いかけた俺は、黒ひげとの戦いに敗れ海軍に捕らえられた。
そしてインペルダウンへと放り込まれ、そして海賊王との血のつながりを理由に処刑されるはずだった。
そんな俺を親父達と弟は命を賭けて助けに来てくれた。
その嬉しさは今も胸に暖かな光を灯してくれている。

そして、弟を狙った赤犬の拳を受けて、俺は死んだはずだった。


あの時の痛みと体を焼く熱さは思い出すと、また身体によみがえりそうなほど、鮮明な記憶だった。

なのに、どういうことだ。
体には火傷跡があるだけで、それ以外に異常は感じられない。




「なんなんだよ、一体…」


意味が分からない。
あの後、ルフィはどうなったんだろうか。
親父は、皆は…


何か情報になるものはないか…!!?


好きに使って良いと書いてあったので、お言葉に甘えて部屋の中を探させてもらった。
探しているのは新聞だ。

少し時間はかかったが、新聞の束を発見することが出来た。
しかしここで問題は発生した。

そう。文字の問題だ。

メモを書いてくれた奴とは違って、この新聞は意味の分からない文字でしか書かれていなかった。
これじゃあ、意味も分からねえし、いつのものなのかも分からねえ…!!
せめて、写真くらいないかと、めくってみたが、どこにもルフィや親父の写真はなかった。

情報に疎い島なのか…?
いや、それでも、白ひげが新聞に載らねぇ所なんてあるはずがねぇ。

ニュースに載らねえほど日が経っているのか…



「親父…」


今すぐにでも出て行きたいが、ここがどこかも、親父がどこにいるかも分からない。
それならメモの主が帰ってくるのを待って情報を得るのが良いのは分かっているのだが、気が急いて意味もなく動き回ってしまう。
思い切って部屋を出てみたら、玄関がすぐ近くにあった。

出ていけば…


出て行けば、どうなるというのだろうか。


ふと顔を上げると、玄関にもメモが貼ってあった。


『ここに来たということは、出て行かれますか?
 止めはしません。お好きなようにしてください。
 あなたの靴は見つからなかったので、そこに置いてある靴を使ってください。父の遺品なので、返さなくても結構です』

「こんなもの履けるわけねえだろ…」


ここまで世話になっておきながら、大切なものを借りていく訳にはいかない。
身動きが取れず、玄関に蹲る。
蹲って見えた玄関の靴は女物ばかりだった。
部屋の内装はシンプルで性別が分からなかったが、俺を拾ってくれたのはどうやら女らしい。

情報も得られたことだし、Uターンしてさっきまでいた部屋へ戻ると、その部屋の扉には、


『良心が咎めましたか?なら作戦成功です』


というメモが貼ってあった。
良くも悪くも気が抜けた。

こうなれば、このメモの主をひたすら待ってやろうじゃねえか。


そう決意して部屋に戻る。
そして最初に目に入ったのが食卓だった。

腹減ったな…

そこにも何かメモは残されていないかと期待して、机の上を見に行く。
予想通りそこにもメモはあった。
相変わらず、意味が分からない文字と読める文字の二種類で書かれていたが、そのメモによれば、俺のために作った料理が冷蔵庫に入っているらしい。

なんていい奴なんだと思った。

冷蔵庫に入っていたため冷たかったが、料理は美味かった。
考えてみれば、もう何日もまともな飯を食ってねえ。
そう自覚してしまうと、もう手は止まらなかった。



「うぅ…くぅ…」


冷たいけど温かい料理たちに自然と涙が零れ落ちた。


親父のこと。ルフィのこと。白髭海賊団のこと。
色々と気になることはあるが、まずはこの女性に礼を言いたいと強く思った。



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