貴方が愛しい    [ 3/9 ]

「ふう…」


外傷はゼロで、呼吸も安定している。
顔色も悪くない。
おそらく、何かしらの原因で気絶し、そのまま深く寝入っているようだ。
これなら本当に救急車を呼ばなくて大丈夫そうね。
素人判断だから危ないのだけれど、相変わらず気乗りしなかった。

ふと彼の格好に目がいく。
そういえばこの人上裸に半パンだったわ。
残暑とはいえ上裸で寝るのにはもう寒い時期だ。

まだ取っておいた父親の服を引っ張り出してきて、苦労したが何とか着替えさせることが出来た。
血で汚れているが、さすがに下を着替えさせる勇気はないのでやめておこうとも思ったのだが、衛生面を考えて替えてあげることにした。

奇跡的に新品の下着も見つかったので、今は起きるなよと念じながら、あまり見ないようにして着替えさせることに成功した。
ズボンも履かせて完了である。




「ふう…」


さて、一息ついたところで、私も服を着替えたい。
血が乾いていたこともあって、そんなにべったりと付かなかったことはありがたいが、ところどころ付着したのか汚れているし、何より汗でべとべとだ。
まあ、今日は仕事用の安い私服を着ていたし、汚れが落ちなくてもダメージはない。

というかまずはシャワーを浴びたいわ…。

私がいない間に目を覚ました時のために、目に付きやすいところにメモを残しておいた。
どういう経緯で今そこに寝かされているのかと、こちらに敵意はないこと、後は、気兼ねせずに休んでいて良いということを記しておいた。
少し悩んだが、外国人だった場合を考えた結果、日本語と英語の両方で書き記しておいた。




シャワーを浴び、ルームウェアに着替えて、リビングに戻ってみたが、先程と変わった様子はなかった。
これなら多少うるさくしていても、問題はなさそうだ。

静かなのは嫌いなので、音量を極力抑えてテレビをつける。
テレビから聞こえるバラエティの明るい声を聞いて、ほっとした。
非日常的なことが起こって、無意識に力が入っていたようだ。

気が抜けるとお腹も減る。

簡単に野菜炒めを作り、食べるかどうかわからないが、彼の分はラップをかけて置いておいた。

ご飯を食べてしばらくは、リビングでテレビを見ながら過ごしていたが、一向に起きる気配はない。

改めて見てみても、本当に似ているわよね。

多分これだけ似ているコスプレなら、ネットに上がっていても不思議ではない。
というか顔もイケメンだし、ショーに出てきてもおかしくないレベルだ。

もしも明日も目覚めなかったら、ネットで調べてみようかしら。


「本物だったらいいのに…」


思わず零れた言葉に苦笑する。
有り得ないとは分かっているんだけれど、ついそう願ってしまうのだ。

本物であったらどれだけ良いか。


別に少女漫画のように、恋に落ちたいわけじゃない。
ただ、エースが生きていてくれればそれだけで良いんだ。
ただそれだけで。

エースが死んだ場面を思い出して、涙ぐむ。
思い出しただけで未だに泣けるくらい、私には彼の死が悲しかった。
漫画にそんなに感情移入して、なんて周りには言われたけれども、悲しいものは悲しいのだ。


沈んだ気分で、時計を見るともう日付を跨いでいた。



「はあ……もうこんな時間か…」


いつもよりも夜更かしをして様子を見てはいたが、私ももう何度も意識が飛びかけているくらい限界である。

もう一通メモを書くことにした。
今度は、簡単な家の見取り図を書いて、トイレと私が寝ている部屋の説明をした。
それと、枕元に水筒を置いておいたことと、冷蔵庫の中身は好きなように食べて良いということを書いておいた。
書いたメモを先程と同じように目に付きやすい場所に貼っておく。


「おやすみなさい」


明日は起きるといいなと思いながら、私も眠りについた。









だが、彼を拾ってから2日経ったが、目覚める様子はなかった。

水を飲んだ様子もない。湿らせた布を唇に当てたりしたが、付け焼刃であることは承知している。
相変わらず呼吸は安定しているし、苦しそうな様子がないのが救いだった。

だが、今日目が覚めなければ、病院に連れていくしかないだろう。

どこの病院が良いか調べなきゃいけないわね…。


そう思いながら、新しいメモを書く。

私がいない間や寝ている間に目覚めたときのために書き始めたのだが、気がつけば部屋のいたるところにメモが貼ってある状況になってしまった。

これは新しく玄関に貼る分だ。


書き終わったメモを玄関に貼って、靴を履き替える。

今から2時間ほど打ち合わせに出ていかなければならない。


万が一のために彼の分の靴も玄関に出しておいて、家を後にした。


帰ってきたら、目が覚めているといいなー。


*prev / next#

目次へ
しおりを挟む



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -