「今日はこれで話しはおしまいよ。さてと、エースの目が覚めたことだし、いつまでもリビングに布団を敷いてちゃ駄目よね」
エースが泣き終わって落ち着いたところを見計らって、顔を見られないように立ち上がる。
顔見られたら泣いてたのバレバレだし。
あ、でもさっき泣いたんだから、その跡ってことにすればいいのか。
敷いていた布団を持ち上げて、運ぶ。
「え?」
「こっちに使ってない部屋があるから、そこを使って頂戴」
こっそり涙だけ拭って、リビングを出て左手にある部屋へと案内する。
運んできた布団は、エースに手伝ってもらいながらベッドへと敷きなおした。
とりあえず、今日は寝れれば問題ないだろう。
ついてきたエースに、電気の位置や収納箪笥の説明などをした。
「必要な日用品とかは明日買ってくるから、今日はちょっとお父さんのもので我慢しててね」
一応今日少し買ってきたものの、今日と明日の分しかない。
それに、いつまでもお父さんの服を着せておくわけにもいかないので、というかせっかくいい体してるんだからお父さんの服だなんて勿体無いわ!
天は私にエースを着飾る機会を与えてくれたもうたのだ!
このチャンスを逃してなるものか!
使命感に燃えながら、他に今日伝えておかなければならないことはあるか考えてみる。
何かあるかしら?
2階の部屋については明日でも良いし、細かいルールとかも明日で良いわよね。
うん。残りは全部明日で良さそうね、なんて考えていたら、
「ちょ、ちょっと待った!!」
エースから制止の声が上がった。
「ん?どうかした?」
「俺を置いてくれるのか!?」
今更な質問に、首を傾げる。
3日間も寝させておいて、ご飯まで食べさせている上に、異世界の説明をしただけで放り出すような人間に見えたのだろうか。
というかそんな人間の方が珍しいだろう。
見捨てるなら最初から見捨てている。
「拾った責任は取るわよ」
「あ、いや、でも、女の1人暮らしに男が住むのは…」
「あら、私を襲う気でもあるのかしら?」
「ねえよ!!」
「なら問題ないじゃない」
「でもよー…」
全力で否定されるとそれはそれで悲しいものだが、エースが襲うような人間じゃないってのは良く知っている。
どれだけ漫画で読んだと言っても、つい先程その事実を知ったエースに理解しろというのは酷だろう。
まあ、例えそういうような人間だったとしても、この状況で泊めないっていう選択肢は私の中で存在しないのだが。
自衛すれば良いだけだし。
「つべこべ言わない!他に当てがあるの!?」
「…ないです」
「ならここは好意に甘えなさい!」
「はい」
泊める側がいいと言っているのに、なおも言い募るエースを一喝すると、大人しくなった。
そうよ。それでいいのよ。
私としてはエースとひとつ屋根の下だなんて、ご褒美でしかないのだしね。
「改めて、これから世話になる」
「うん。よろしくね」
真面目な顔で改まって頭を下げるエースに、私も頭を下げ返した。
まだ、色々と謎は多いし、信じられない気持ちでいっぱいだけれども、今日から我が家に火拳のエースが加わりました。
(やっべ、俺名前聞いてねえ…!!)
(あれ、私そういえば名乗ってなかった…?)
(2015.01.03)
*prev /