檜佐木修兵の受難    [ 64/64 ]

俺は檜佐木修兵、九番隊副隊長だ。
好きな食べ物はウインナーで、嫌いな食べ物はウニ。
趣味はギターを演奏することだ。

いや、今この状況で俺のプロフィールなんてどうでもいい。
現実逃避か。
現実逃避だな、これ。

俺は今、物凄く戸惑っている。
出来ることなら、今朝目覚めるところから一日をやり直したいと思うくらい戸惑っている。
もっと言うならば、この任務を引き受ける前に戻りたいと思うくらい、戸惑っているのだ。


今回の虚の討伐任務は予想以上に数が多く、1人では隊員のカバーにも限界があるので、俺は瀞霊廷に応援を頼んだ。
そもそも新人隊員に実践経験をつけてやろうという編成で、まともに戦える奴が少なかったのも原因のひとつであった。

だから俺は、出来れば平隊員ではなく席官クラスを寄越して欲しいとも言った。


確かに、言ったのだが…



「な、んで、日番谷隊長が…いらっしゃるんですかっ!?」


そう。
応援が到着したと連絡を受けて迎えに行くと、指定された地点に現れたのは、日番谷隊長と、四番隊の気弱くて幸薄そうな…確か山田という男と、無駄に綺麗な男の三人だった。

要請した人数より少ない上に、予想外の人物の登場に俺は状況が飲み込めなかった。

確かに隊長が一人居れば、要請した人数はいなくていいが…普通の現世任務に隊長が派遣されることなんてまず無いと言って良い。
今回の任務は俺の予想以上にヤバイ状態なのだろうか。

不安が胸をよぎる。



「席官クラスを願いましたが、まさか隊長が来られるとは…何か問題があったのですか!?」

「安心しろ。俺は非番だ。何故俺がここにいるかについては、そこの馬鹿に聞け」

「ん?俺のこと?」

「お前以外に誰がいる」

「あんたは…」


そう言いながら、日番谷隊長が指したのは、今一番俺が気になっている無駄に綺麗な男だった。
綺麗と言っても、女性に見える訳ではない。
かといって男性的でもなく、性別の括りから逸脱した美術品のように綺麗な顔だった。
名前は忘れてしまったが、四番隊に凄く綺麗で強い男がいるという噂は聞いたことがある。
噂以上の顔だと思った。
何もなければ、何て綺麗な顔なんだとしばらく惚けていただろう。
だがしかし、今はそんなことよりも気になることが多過ぎた。

第一に、応援を呼んだのに何故四番隊が二人も来たのか。
第二に、何故非番の隊長が寄越されたのか。
第三に、噂の主が何故ここにいるのか。
第四に、何故、目の前の三人が仲良く手を繋いでいるのか。



特に、第四について今猛烈に理由を聞きたい。
左手を日番谷隊長と繋ぎ、右手を山田と繋いでいるこの男が謎すぎる。

というか、日番谷隊長も何故その状態で普通にしていられるんだ!?


だがその男は、声を掛けられてようやく俺を認識したかのように、不思議そうな目で俺を見た。


「ん?お前、誰?」

「いや、それを俺が聞いてるんだろうが」


イラつきながら返すと、本人よりもその横にいた山田の方が慌て始め、噂の男に説明をし始めた。


「更紗さん、更紗さんっ!!九番隊の檜佐木副隊長ですっ!」

「え、九番隊いつ副隊長変わったの?」

「もう随分昔のことだと思います」

「お前なぁ…覚えとけって言っただろうが」

「だって俺知らない奴は名前覚えたってすぐ忘れるんだもーん」

「はあ…」


苦笑いをする山田に、溜息をする日番谷隊長。
そして、本人の目の前で悪びれも無く覚える気がないと言った男。


なんなんだこいつは…!!

普通は隊長と副隊長の名前くらい把握しているだろ!?
そもそも俺が九番隊副隊長に就任してから、どれだけ経ってると思ってんだよ!!



「あの…日番谷隊長、この人は…」

「こいつは、四番隊の藤城更紗だ。俺がここにいるのも、山田がここにいるのも、全部こいつの我が儘のせいだから、虚討伐も全部こいつにやらせとけ」


ああそうだ。藤城更紗だ。
四番隊にいるにもかかわらず、戦闘能力がズバ抜けているとか、更木隊長に勝ったとか、女顔負けの綺麗な顔をしているとか。
任務に出る前から色々と噂を聞いていた。


どれだけの顔か見てみたいと思っていたし、興味も持っていたが、




「え、面倒臭いからやだ」


やたらと態度でかくないか、コイツ!!?

俺のイメージでは、もっとこうクールな感じというか、例えるならば六番隊の朽木隊長みたいなのを想像していたのだが、そんなことはなかった。
むしろ今物凄く、そう思ってしまった朽木隊長に謝りたい。


「やらなかったら、俺は帰るぞ」

「やります!!やりたいです!!俺今すっごく体を動かしたい気分!!」


離れようとする日番谷隊長に縋りつく姿は、クールとはかけ離れていた。
その姿に、容姿に関する噂以外は疑いたくなった俺は悪くないと思う。

疑いの眼差しで見ていることに気付いたのか、藤城と目が合った。
日番谷隊長に向けられていた視線とは全く違う、鋭い視線に自然と体が強張る。
そんな自分に動揺するが、かけられた言葉にそんなものは吹き飛ばされてしまった。



「おい、そこの六九さっさと案内しろ」

「…はあっ!?六九!??俺のことか!!?」

「お前以外に誰がいんだよ、六九。さっさと案内しろよ六九。ていうか何で六九?」


俺の顔に彫ってある刺青から、六九と呼び始めたこの男。
一応俺は九番隊副隊長で、こいつは四番隊の平隊員だ。

なのに、この言い様はどういうことだ!?


「檜佐木だ。その呼び方やめろ」

「え、無理。嫌。どうせ名前忘れるし、六九でいいだろ」

「檜佐木だ!」

「名前とかどうでもいいから、とっとと案内しろよ六九」


日番谷隊長の手前、怒鳴り散らすわけにはいかないので、冷静にと自分に言い聞かせながら、訂正を入れる。
だがしかし、全く聞き入れる気はないというか、俺の話も聞く気がない態度に、ブチ切れそうだった。

なんなんだこいつは!!



「日番谷隊長…っ!!」

「檜佐木、抑えろ。こいつにキレても無駄だ。そして頼むからいてくれ、俺一人じゃ無理だ」


キレる訳にはいかないので溜まらず日番谷隊長に訴えかけたが、疲れた様子の日番谷隊長に俺は怒りを静め頷くしかなかった。

日番谷隊長も大変なんだな…

同情したくなったが、この後の自分の姿を見ているようで複雑な気持ちだった。

今すぐこの任務を降りたい。


どうせ来るなら乱菊さんを連れて来てくれれば良いのに、と日番谷隊長にこっそり恨み言を吐いた。




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