えこひいき上等!    [ 61/64 ]

「卯ノ花隊長といえば、賭け事は盛況だったそうですね」


お茶を飲みながら、さらりと胴元がれっちゃんだと当てられて苦笑する。
まあ、俺が賭け事の対象になっても文句を言わない相手なんて数が限られているし、分かる人にはすぐ分かることだ。



「すいません。長次郎さんと左陣さんを賭け事に使ってしまって…」

「いえ、むしろノ字斎殿が大穴だと喜んで褒めてくださいましたので、私としてもよくやったなと」


長次郎さんは俺の頭に手を伸ばし、よしよしと撫でてくれた。


「ワシも別に周りに変わりはなかったから、問題ない」


左陣さんも俺の頭に手を伸ばし、ぽんぽんと撫でてくれた。

褒めてもらっちゃった。
頭撫でてもらっちゃった。


二人に頭を撫でて貰うなんて何年振りだろうかと思うと、だらしなく顔が緩む。



「良かったです。一応、その紅茶はお詫びの品代わりということで」

「ありがたくいただいておきます」

「左陣さんには、コレです」


荷物から包みを取り出して、それを左陣さんへと渡す。
包みの中からは、俺が選んだ大きな櫛が出てきた。


「現世の犬用ブラシか」

「ほら、前のやつ壊れちゃったって言ってたじゃないですか。だから新しいの買ってきて貰いました」

「すまんな」


長次郎さんの紅茶を淹れるのが俺の仕事なのと同じように、左陣さんの毛の手入れをするのは俺の義務だと思っている。


「使ってみてもいいですか?」

「好きにしろ」


よっし。ようやくふわふわの毛に触れると喜んだのも束の間、長次郎さんが左陣さんの笠を投げて寄越した。




「残念ながら、ブラッシングはまたの機会ですね」

「ええー」

「どうやらお客様が大勢いらしたみたいですからね」


その言葉を裏付けるように、こちらに向かう大勢の足音が聞こえてきた。
なんかわらわらとした気配は多いなと思ってたんだけど、九番隊の隊員じゃなかったのか。


「無粋な人達ですよねー。七番隊隊長と一番隊副隊長の休憩時間を邪魔するなんて。ほんとマジで殺してやりたいくらい」


怒りを抑えながら、左陣さんに笠を被せてあげる。


「隊長!!」
「狛村隊長!!」
「雀部副隊長!!」
「この号外は本当なのですか!!?」
「何で俺たちに教えてくれなかったんですか」
「俺、それで大損して…!」
「俺は納得いきません!」
「更紗さんは俺たちのものです!」
「雀部副隊長には、あんな人似合いません!」


隊首室前の庭に集まった雑魚共は、こちらに向かって口々に喚き立てていた。

白坊や更木が相手だったらやらないだろう、その人を選んだ無礼な行為に更に怒りがつのっていく。

長次郎さんと左陣さんを舐めんのもいい加減にしろよコラ。



「左陣さん。隊首室以外なら壊しても大丈夫ですか」

「…建物以外で頼む」

「建物の中に塀は含まれますか」

「…少しくらいなら許そう」

「了解です。お二方はゆっくりとお茶を飲んでいただいていて構いませんので」

「…更紗。ノ字斎殿に迷惑がかかる可能性がありますので、一番隊の人間が含まれていた場合は、お手柔らかにお願いします」

「了解です。じゃあ一番隊と七番隊だった場合は、頭突きで許しときます」

「…すまぬ」


肉弾戦は面倒くさいから好きではないが、ここは左陣さんのためにも鬼道をぶっ放すのはやめようと心を決める。

要するに全員塀か地面に叩きつければいんだろう?



「狛村隊長!!」
「雀部副隊長!!」

「なあ。うるさいんだけど」


がらりと障子を開けると、隊首室前の庭には人だかりが出来ていた。



「更紗さんだ…!」
「じゃあやっぱり」
「あの号外は本当だったのか…!」
「俺は信じないぞ…っ」


俺が出て行くと更にざわつく集団に怒りが限界まで突破した。



「なあ。うるさいって言葉の意味知ってるか?」

「・・・!!」


一番近くにいた奴の胸倉を掴んでそう問いかけると、ようやく俺が怒っているのが分かったのか、一瞬で周りの奴も静かになった。

騒ごうが、静かになろうが、ぶっ飛ばすことに変わりはないけれどな。


「うるさいって言葉の意味知ってんのって聞いてんだけど?」

「し、ししし、知ってます…!」

「お前何番隊?」

「?ご、五番隊で…ごふあっ!!!」

「おっしゃー!!五番隊!!」


一番隊でも、七番隊でもないその返答に、胸倉掴んでいた手を離して、地面へ落ちる前に回し蹴りを叩き込む。
飛んで行ったその体を見送ると、塀を壊して外へと飛び出して行った。

よし。許容範囲内っと。


「「「「「ひいいいいいっ!!!」」」」」

「次、そこのお前。何番隊?」

「ささささ三番隊で…ぶふぉっ!!!?」

「次」

「九番隊でありま、ぐはっ…!」

「次!」

「い、一番隊です…!」

「よし」


一番隊と名乗ったそいつには、手刀で頭が割れない程度に軽く叩いておいた。
いや、よくよく考えたら、頭突きって俺も痛いし、好きでもない顔に顔近づけんの嫌じゃん?

特別扱いされた本人は、痛みに頭を抑えながらも、はてなを飛ばしていた。


「え、え?」

「次」

「な、七番隊でありますっ!」

「よし」

「次」

「十番隊で、ぶばっ!!?」

「次!」


次の奴も手刀で対応して、その次の奴は前の二人が出来なかった分も含めて、全力で地面に頭を叩きつけてやった。


(((((あからさまな、えこひいきだ…!!!)))))

「逃がすわけねえだろ?ちょうど一と七の人間見つけたし、嘘かどうかはこいつらに判断して貰うから、お前ら正直に所属答えろよ」



じりじりと後ずさっていく集団に、にっこりと笑みを向ける。



「人の楽しみを邪魔したんだ。それ相応の礼をしてやらないとなあ?」



その後は、増えていった一番隊と七番隊の隊員に手伝わせて仕分けを済ませ、最終的に全体の六割ほどをぶっ潰すこととなった。



「次、邪魔したら霊子ひとつ残さず消してやる」








(子どもは元気な方が良いと言いますが、見事なまでの暴れっぷりですね)

(いささか暴れすぎでは…)

(塀、壊れてしまいましたねえ。…彼らに修理を頼みましょうか)

(…そうだな)




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