八番隊にて    [ 56/64 ]

「おや、更紗ちゃんと阿散井くんとは奇妙な組み合わせだねぇ」


阿散井の案内で予想よりも早く八番隊に到着することが出来た。
隊首室に近付くと、調度良く向かいから女物の着物を翻し、春水が歩いてきた。

こいつ、またサボってるな。



「お疲れ様です、享楽隊長」

「お前は相変わらず、仕事してねえな」

「ちょ、更紗さん…!?」

「ひどいなぁ、さっきまではしてたんだよ?阿散井くん、更紗ちゃんの相手大変だったでしょ。お疲れ様」

「おい。それどういう意味だ。俺はむしろ、こいつの頼みを聞いてあげたんだぞ。な、阿散井」

「え、あ、まあ」

「ああ。だから、今のこの状況な訳ね」


納得したように頷く春水の顔がむかついたので、その顔を書類の束で引っ叩いてやった。



「いたっ!?」

「これ新しい仕事。十番隊から」

「嬉しくないプレゼントだねぇ…」



そう言いながらも受け取ったので、真面目に処理してくれるんだろう。
俺はどうでもいいが、処理してくれないととーしろーが困るので、助かる。
まあ、まさか俺が手渡しした仕事を放り出すわけないしな。

懐にしまったのを見届けて、俺の任務は完了。






「そういえば、噂聞いたよ」

「享楽隊長のところにまで回ってるんですか?」

「そうだよ」

「まあ、そりゃそうだろ」

「?」


不思議がる阿散井を、説明するのが面倒くさいから無視した。

春水は耳が早い。
元々、噂話の類が好きということもあるが、こいつはそういうところから重要な情報を取り出すのが上手い。
ふらふら出歩いては、どこかから情報を持ってくる。

そしてそれを篭りがちな十四郎のもとへ届けるっていうのが、こいつの習慣だ。




「もう、酷いと思わないかい?卯ノ花隊長や浮竹に負けるのは納得いくけど、お宅の隊長さんや五番隊の隊長さんにも負けるとはねえ…」

「俺に言われても…」

「日ごろの行いじゃねぇの」

「更紗ちゃんの愛が足りないんだよ」

「元からないから安心しろ」


そう言い放つと、泣きまねをしながら抱きついてきた。
鬱陶しい。事実だ。

引き剥がそうと思ったが、春水が抱きついた瞬間、遠巻きにこちらを見ていた奴らがざわついたのが分かった。



ふむ…







いいこと思いついた。







「お前ちょっとかがめ」

「ん?なになに?」


少し身をかがめてきたが、まだ高い。




「見下ろしてんじゃねえよ。もっとかがめ」


でかい図体しやがって。

かがむのを待つのが、まどろっこしくなったので、春水の襟をつかんで顔を引き寄せ、その頬に口付けた。


…髭が痛ぇなこいつ。




「な…っ!!!?」


隣で阿散井が鯉のように口を開閉しながら絶句しているが、面白い顔なので放置しておく。
それよりも、目的だった周りでこそこそ見ていた奴らが色めき立ったのを確認して、手と口を離した。

ちょろいな。


春水は頬に手を当てながら、ニヤついている。




「こんな何十年かに一度のサービスしてくれちゃって、どういう風の吹き回しなのかな?」

「お前に票が集まれば、その分あの人たちに票がいかなくなるから配当金増えるだろ。お前も順位が上がるし一石二鳥じゃねえか」


別に隠すことはないので、そのままの事実を告げれば春水は肩を落としていた。

馬鹿だなぁ。色恋事なわけねぇだろうが。



「君、悪魔だね…」

「死神なんだから似た様なもんだろ」

「違うと思うけど」

「胴元からもっと稼げって依頼されてんだよ」

「胴元ってまさか…」

「ひ・み・つ」


胴元が誰であるか気付いたであろう春水に、口元に人差し指をあてて名前を言うのを制する。
まあ、俺が素直に言うことを聞く相手なんて限りあるから、すぐに分かってしまうが。
察したのか、春水はもうそのことには触れてこなかった。





「まあいいや。久しぶりにデレてくれたし、嬉しいよ」


俺の手を取って抱き締めてくる春水に、周りが更に盛り上がっているから良いだろうと好きにさせていたのだが、




「ちなみにこのまま夜のサービスもしてくれないかな」

「触んな。死ね」


それだけにしてれば良いものを、あろうことか俺の尻を撫でてきやがった。
ニケけたその顔に拳を埋め込み、問答無用で床に沈める。

エロ親父が。



むしゃくしゃしたので、未だに阿散井が鯉のように口を開閉しながら絶句しているので、そちらに向き直る。



「なんだ阿散井。お前もやって欲しいのか?」

「いいいいいいいいいいいですっ!!!!無理です!!!遠慮します!!!!」

「失礼なやつだな」


近寄ろうとすると、両手を振りながら俺との距離を取る阿散井は大変失礼な奴だった。

そこまで拒否るか。
冗談のつもりだったけど、お前にも本当にやっちまうぞ。

そして白坊にいびられればいい。




「ああぁっとええっと、次のところ寄らなくていいんすかっ!!?」

「まだどこかへ寄るのかい?」


明らかに苦し紛れに出したと分かる阿散井の提案に、春水も起き上がって聞いてきた。

しょうがない。
いじめるのは止めにしてやろう。




「十一と十三」

「浮竹のところにも寄るのかい?…あ、そういえば、七緒ちゃんが君に用があるって言ってたよ」

「七ちゃんが?」


七ちゃんの用事と十一番隊なら、間違いなく七ちゃんの用事が優先だろう。

なら、この書類はどうするか。

なんてことはない。
すぐ隣に、使いっ走りに出来る人材がいるではないか。



「よし。阿散井、お前が十一番隊行って来い」

「え!?俺っすか!?」

「白坊の機嫌直してやった、恩があるよな〜?」

「…わ、わかりましたっっ!!」


脅すように顔を近づけると身の危険を察したのか、書類を勢いよく受け取り、阿散井は走り去って行った。

相変わらず失礼なやつだ。





「七ちゃんは?」

「隊首室にいるんじゃないかな。それじゃあ僕も行くね〜」






上機嫌に手を振りながら去っていく春水を見て、ふと思った。




あいつ仕事せずにどこ行くつもりだ。と。









「七ちゃんに密告しておこう」



きっと今頃、春水を探しているであろう、七ちゃんのもとへと俺は向かった。







(七緒ちゃんに足止めしてもらえるし、浮竹に自慢しに行こっと)

(享楽隊長とのことが広まればまた機嫌悪くなんだろうな…。俺どんな顔して朽木隊長に会えばいいんだ…)




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