六番隊にて    [ 55/64 ]

「えっと、これは六番隊で、これは四番隊ね。んで、八番隊と、この束は十三番隊で…げっ十一番隊のも混ざってんじゃねえかこれ」



約束通り半刻でとーしろーを起こしたあげた俺は、寝惚けていた可愛さに悶えて暴れた罰として、予定していた量の倍近い書類を持たされ、追い出されてしまった。

どうせ迷子になって十番隊に帰って来れないだろうから、って酷くないか?
まあ否定は出来ないが、とーしろーのもとへだったら瞬歩で駆けつけられる自信はあるんだけどなあ。



「四番隊のはそのまま持って帰ればいいし、十三番隊は場所分かってっから、六と八と十一探すか」


位置関係は分からないが、これは本当に面倒くさい仕事になりそうだ。

それでも、知り合いがいるところを選んでくれているあたり、とーしろーの愛を感じる。
やっぱ大好き。

でも、十一番隊は正直行きたくねぇなー…めんどくせー…
更木いなきゃいいけど。






「白坊ー。十番隊からお届け物ー」



まずは、一番近くに気配を感じた白坊のもとへ行くことにした。
ようやく見つけた隊首室に入ると、白坊のほかに阿散井もいた。



「…更紗」

「どこから入ってきてんすか…!!?」

「窓」


相変わらず、阿散井は叫ぶのが好きなようだ。
というか、窓から入ってきて何が悪い。

たまたま、近くに見つけた入り口がここの窓だっただけだ。
分かりやすいところに扉を作らない方が悪い。



「普通に入り口から入って来てください!!」

「外と繋がってんならどこでも入り口だろうが。それとも、窓は出口専門だって言うのか」

「〜っ朽木隊長!」

「恋次。諦めろ。兄も遊んでやるな」

「遊…っ!!?」

「はーい」


だって阿散井って、いちいち反応してくっから面白いんだよなー。
おもしろ眉毛だし。




「受け取ろう」

「はいよ」



白坊が差し出した手に、書類を載せて俺の任務完了。
さて、次の隊に行こうかと窓の方へ体を向けた瞬間、



「更紗さん、ちょっといいっすか…?」


阿散井に手を引かれ隣の部屋へと連れて行かれた。
そこは平隊員用の執務室らしく大勢の隊員がいたのだが、俺が部屋に入った途端、全員が手を止め見つめてきた。
しかもその視線は、いつもの好奇なものではなく、何故か期待に満ちている。

面倒ごとの臭いがする。



「あんたが来てくれ助かった…」

「どうした?」

「どうした?じゃねえっすよ!!あんたの噂聞いてから、隊長の機嫌が目に見えて悪くなって、ここ数日俺ら生きた心地しないんすよ!!」



隣の部屋には聞こえないように小声で必死に訴えてくる阿散井の後ろで、他の隊員も同調するように頷いていた。


「噂って」

「あんたに好きな人がいるとかいうあの賭けのやつっすよ!!」


やっぱそれなのか。
白坊のもとに届くぐらいに流行しているのかあれは。



「で、俺にどうしろと?」

「頼みますから、なんとかしてください!俺らこれ以上、隊長の威圧感に耐えれないんすよ!!」


阿散井の言葉に再び頷く周りの隊員たち。
中には、何を思い出したのかは分からないが顔が真っ青になっている者もいた。

まあ、そういう展開になるよな。
めんどくさい。


だが、阿散井の頼みを聞いてやる義理は全くないが、白坊が機嫌を損ねたままなのは嫌なので、協力してやろう。



それにしても、その噂聞いて不機嫌になるなんて、俺って愛されてるなー。







隊首室に戻り、まずは白坊と自分の分のお茶を淹れてあげる。
さすが四大貴族。高級茶葉を使っていらっしゃる。
美味しかったら、花太郎へのお土産として一袋貰って帰ろう。


そんな俺の一挙手一投足すら見逃してはなるものかと気迫を感じるほど、扉の隙間から幾人もの視線が突き刺さる。

そんなことしてたら、バレるぞお前ら。



「恋次と何を話していた」

「んー?例の賭けに参加してるらしくって、好きな人は誰かっていう話」


お茶を手元に置いてあげると、それには手を付けず、書類から視線も上げないままで質問を投げかけられた。
何でもない声色だが、その眉間には微かに皺が刻まれている。

それに気付かない振りをしながら、核心に触れるために嘯くと、目に見えて不機嫌になったのが分かった。



「坊ー白坊ー」

「何だ。書類ならばもう受け取ったが。それと、坊はやめてくれと何度言えば分かるのだ」


こちらを見ずに、追い払おうとする白坊に思わず笑みが漏れる。
本当に拗ねている。

まだまだ可愛い坊だな。



「俺の好きな人誰か教えてあげよっか?」

「…別に、興味などない」



嘘つけ。

飲みかけのお茶を白坊の机の上に置き、後ろから白坊の首に手を回し、抱きしめる。
途端にざわつく隣の部屋。

それでも、まだ白坊は俺の方は向かない。



「俺ね、大好きな人が二人いて、大好きな癒しも二人いるけれども…」

「・・・」

「大好きな弟は一人しかいないんだぞ」

「・・・」


出来るだけ優しい声でそう言うと、仕事をしていた白坊の手が止まった。
後ひと押しだな。

更に顔を近づけ、耳元に口を寄せる。
隣の部屋から微かに悲鳴が聞こえた。

お前らは黙って見守ってりゃいいんだよ。



「白哉、お前のこともちゃんと好きだぞ」


囁くようにそう告げると、ようやく白坊はこちらを見た。
その顔は、分かりにくいが、ほんのりと赤くなっている。

まだまだ可愛いなぁ。


「…それは卑怯だ」

「お前が俺に勝とうなんざ、まだ早いよ」

「早いかどうかは私が決める」



まだ少し拗ねているが、これは甘えと同義だろう。

見下ろせる状況なんてあまりないので、思う存分頭を撫でてやった。
白坊もされるがままになっているところを見ると、撫でられるのが嬉しいようだ。



「私も兄が好きだ」

「知ってる」


微笑む白坊に、再びあがる悲鳴。
お前ら仕事しろよ。
まあ、白坊の機嫌直ったみたいで良かった良かった。



「さてと、次行きますか。白坊、この茶葉貰っていくな」

「名前…」

「あれは、時たまのご褒美」

「…更紗」



背中に白坊の視線を感じるが、そう簡単に名前呼びの権利は与えられない。



「だーめ。阿散井、八番隊まで案内しろ」

「俺っすか!!?」

「じゃあな、白坊」



右手に茶葉の袋を、左手に阿散井の襟を掴み、俺は六番隊を後にした。

高級茶葉はやはり旨かった。




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