■ ■ ■ ■ ■
「藤城更紗、只今害虫駆除から戻りました」
「ご心配おかけしてすみませんでした…」
花太を連れて四番隊に入ると、出ていった時と同じ顔ぶれだった。
おい春水、お前仕事サボってるだろう。副官の子に言いつけるぞ。
「花太郎が無事で良かったです」
「当たり前だろ?俺が迎えに行ったんだから」
「あのさ、更紗ちゃん」
「ん?」
「ほんとに壊しちゃったんだね…」
窓から外を見ると、微かに俺が壊した所が見えた。
むしろ見晴らしが良くなった。
「あぁ?半壊もしてないんだから、むしろ俺を褒めろ」
「いや、壊さないようにしようよ」
「花太が助けを求めてたんだから、無理」
「あ、あのっ、すみませんでしたっ!!」
春水なんかに頭を下げる花太。
花太が謝る必要なんてないんだよ。
悪いのはあの能無し共なんだから。
「おいこら春水。テメェ、何花太に謝らせてんだよ」
「相変わらず理不尽だよね、それ…。まあ、君が悪い訳じゃないから謝らなくても良いよ」
「当たり前だろ。花太が悪い事なんて何一つ無いんだよ」
「いや、ここまで君を夢中にさせたのはある意味悪いと思うよ?」
「あははは…すいません。更紗さんも、あまり享楽隊長を苛めてあげないでください」
「そうそう。おじさん苛め反対ー」
「えー…まあ、花太がそう言うなら。…春水うぜぇ」
僕お茶淹れて来ますね、と給湯室に駆けて行く花太を幸せな気持ちで送り出す。
そうそう。
この光景がないと、俺が好きな四番隊とは言えねぇよな。
「ところで、あいつらどうしたんだよ」
「九割九分九厘殺しって…」
「んー…殺してはないよ。ただちょっと痛めつけすぎて、当分復帰出来そうにないから、除隊扱いになるんじゃねぇの?」
「お前何したんだよ?」
「ひ・み・つ」
意識して妖しく笑えば、ちかにクリーンヒットした。
「う、美しいっ!」
「弓親テメェ!いい加減にそれやめろ!」
「五月蝿いよ!僕の趣味にケチつけないでくれる!?」
「もっとマトモな趣味持てって言ってんだよ!」
「お前ら煩い黙れ」
とりあえず、人のことを趣味悪いとか言い腐った角之助は物理的に地に沈めといた。
ちかは相変わらず、人の顔を見て興奮している。
「ちかはそんなに俺の顔好きなのか?」
「大好きです!!」
「ふーん。じゃあ、今俺機嫌良いから、特別に好きなだけ鑑賞させてやるよ」
「本当ですかっ!」
キラキラとした目を向けてくるちかは、やっぱり犬に似ていた。
今はちぎれんばかりに尻尾を振っていそうだ。
「じゃあ、僕も―――」
「春水は駄目に決まってるだろうが」
「なんで!?」
「お前に見られたら、汚れる。ほら、ちかおいでー」
「はいっ!!」
部屋の隅で凹みだした春水は放っておくことにした。
俺の許可を得たちかは、遠慮なしに俺のすぐ近くに座り、俺の顔に手を添えて様々な角度から眺めてきた。
別に気にならないので、好きにさせる。
それにしても、こいつの睫毛面白いなー。
「弓親、それは近すぎるだろ!?」
「なんだよ!許可はちゃんと取ってあるんだから、いいじゃないか!こんな機会滅多にないんだし」
「更紗、お前はずっと見られてて嫌じゃねえのかよ…」
「え、だっと俺花太のことしか見てないし」
「…あ、そうかよ…」
脱力したようにそう言ってから、角之助は何も言わなくなった。
静かになって調度良い。
俺が見つめてる中、花太はお盆にお茶を載せて帰ってきた。
「あの…お茶お持ち致しました」
「ありがとう、花太」
匂いを嗅ぐと、香ばしい香りがした。
「あ、これ俺の一番好きな銘柄だ」
「今日のお礼として、…今はこんなことしか出来なくて申し訳ないんですけれど…」
そうやって、困ったように笑う花太に俺は、悶え死にそうになった。
何て可愛いんだ!!ああもうっ幸せっ!!
「ううん。嬉しい、ありがとう」
「こんな蕩けそうな笑みを間近で見られて、何て僕は幸せなんだろう!」
「別人だろアレ…」
「君も罪作りな男だねぇ」
「え、僕ですか!?」
例え、ちかが悶え死にそうになっていようが、角之助が茹でダコのようになっていようが、気にならないくらい、俺は幸せだった。
花太に絡む春水は鬱陶しいので、沈めておいた。
「お前、さっきから享楽隊長の扱い酷すぎないか…?」
「分かってないなぁ、これは更紗ちゃんの愛情表ぐぇはっ!!」
「十四郎には生きて帰れなかったって伝えといてやるから、とりあえず死んどけ」
「ねぇ、ちょっと待って!?その手の持ってるやつ何!?」
「ちか、いい子だからこいつ抑えててくれる?」
「はーい!」
「え、ちょっと!?」
まったく…。春水の奴は沈めても沈めても、すぐ起き上がってくるからしぶとい。
本格的に動けなくしてやろうか、と懐の薬剤を取り出したところで、ガラリと隊舎の扉が開く音がした。
「失礼する」
そしてこちらへやってきたのは――
(2014.05.05)
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