癒やし万歳    [ 50/64 ]

黒い靄が周囲を取り囲む。
花太は俺の言いつけ通り、まだ目を瞑っていた。

花太がこれに包まれることはないけれど、通り過ぎる時怖いだろうし。

ある程度広がった靄は、転がっている男たちは勿論、靄に触れていた地面や壁も削りとりながら、段々と収束を始める。
得体の知れないものから、逃げようと必死でもがいている姿は、滑稽で醜い。




「ああああぁぁぁああっ!!」

「たっ助けて、助けてくれっ」

「煩い。喚くな。黙れ。口を開くな。息をするな。ってさっき俺言わなかったっけ」



怯えたように口を閉じる男たちにようやく満足する。

そうそう。俺の花太を怯えさせた愚かさをそうやって後悔して貰わないと。




そうこうしている内に、靄は俺と花太をすり抜けて、俺の隣で人四人分くらいの大きさで一旦収束を止めた。


中からは相変わらず、耳障りな叫び声や命乞いの声が聞こえてくる。




「もう一つ言い忘れてた。運が良かったら、数年後には生きて戻れるから、安心しろよ?」


花太に聞こえないようにそう囁くと、また何か騒いでいるようだったが、靄が再び収束を始めると、段々と声も小さくなっていった。

四人分の大きさから、三人分、二人分。最終的には硝子玉ぐらいの大きさになった頃には、静かになっていた。

靄を部屋から持ってきた瓶に入れる。



その場にいたのは、俺と花太だけになった。
瓶を振ると、カラカラと音がした。


面白いサンプルが手に入ったなぁ。
後で、阿近に持っていってやろっと。




「花太、お疲れ様。もう目開けていいよ」

「はい」



びくびくしながら目を開けた花太は、周りを見て顔を真っ青にした。



「更紗さんっ!あのっまさかっ」

「大丈夫大丈夫。殺してはいないって」

「じゃあ、一体…」

「俺の卍解って、簡単に言ったら零子を分解するんよ。ということで、あいつらはここにいまーす」

「ええぇぇ!!?」



靄が入った瓶を見せると、花太は驚きすぎて叫んだ状態で固まってしまったようだった。



「これを技術開発局んとこ持ってけば、(多分)元に戻して貰えるから。まぁ、とりあえずは除隊扱いになるけど、それくらいなら優しいもんだよな?」



何年後、もしくは何十年後になるか知らないけど。
むしろ人間の姿に戻れるかどうか怪しいけど、な。

都合の悪い情報は隠して伝えると、ほっとしたのか花太はようやく、ぎこちなくではあるが笑ってくれた。



「そ、そうなんですか…」

「殺してはないから、俺偉いだろ?」

「え、あ、はい。そうですね」

「だろっ!褒めて褒めて」

「更紗さんにしては、我慢しましたね。偉いです」



笑いながら頭を差し出すと、花太も笑いながら撫でてくれた。


最高っ!癒やし万歳っ!




「四番隊に帰ろう、花太」

「はい」



今度こそ、差し出した手はしっかりと花太の手と繋がった。






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