黒い靄が周囲を取り囲む。
花太は俺の言いつけ通り、まだ目を瞑っていた。
花太がこれに包まれることはないけれど、通り過ぎる時怖いだろうし。
ある程度広がった靄は、転がっている男たちは勿論、靄に触れていた地面や壁も削りとりながら、段々と収束を始める。
得体の知れないものから、逃げようと必死でもがいている姿は、滑稽で醜い。
「ああああぁぁぁああっ!!」
「たっ助けて、助けてくれっ」
「煩い。喚くな。黙れ。口を開くな。息をするな。ってさっき俺言わなかったっけ」
怯えたように口を閉じる男たちにようやく満足する。
そうそう。俺の花太を怯えさせた愚かさをそうやって後悔して貰わないと。
そうこうしている内に、靄は俺と花太をすり抜けて、俺の隣で人四人分くらいの大きさで一旦収束を止めた。
中からは相変わらず、耳障りな叫び声や命乞いの声が聞こえてくる。
「もう一つ言い忘れてた。運が良かったら、数年後には生きて戻れるから、安心しろよ?」
花太に聞こえないようにそう囁くと、また何か騒いでいるようだったが、靄が再び収束を始めると、段々と声も小さくなっていった。
四人分の大きさから、三人分、二人分。最終的には硝子玉ぐらいの大きさになった頃には、静かになっていた。
靄を部屋から持ってきた瓶に入れる。
その場にいたのは、俺と花太だけになった。
瓶を振ると、カラカラと音がした。
面白いサンプルが手に入ったなぁ。
後で、阿近に持っていってやろっと。
「花太、お疲れ様。もう目開けていいよ」
「はい」
びくびくしながら目を開けた花太は、周りを見て顔を真っ青にした。
「更紗さんっ!あのっまさかっ」
「大丈夫大丈夫。殺してはいないって」
「じゃあ、一体…」
「俺の卍解って、簡単に言ったら零子を分解するんよ。ということで、あいつらはここにいまーす」
「ええぇぇ!!?」
靄が入った瓶を見せると、花太は驚きすぎて叫んだ状態で固まってしまったようだった。
「これを技術開発局んとこ持ってけば、(多分)元に戻して貰えるから。まぁ、とりあえずは除隊扱いになるけど、それくらいなら優しいもんだよな?」
何年後、もしくは何十年後になるか知らないけど。
むしろ人間の姿に戻れるかどうか怪しいけど、な。
都合の悪い情報は隠して伝えると、ほっとしたのか花太はようやく、ぎこちなくではあるが笑ってくれた。
「そ、そうなんですか…」
「殺してはないから、俺偉いだろ?」
「え、あ、はい。そうですね」
「だろっ!褒めて褒めて」
「更紗さんにしては、我慢しましたね。偉いです」
笑いながら頭を差し出すと、花太も笑いながら撫でてくれた。
最高っ!癒やし万歳っ!
「四番隊に帰ろう、花太」
「はい」
今度こそ、差し出した手はしっかりと花太の手と繋がった。
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