自分が攫われてから、そろそろ一刻ほど経つ。
行動の早いあの人のことだから、そろそろ自分を探しに動いている頃だろうと、花太郎は考えていた。
つまり、彼らの命の制限時間も残りわずかということである。
「ああああのっ、ですから…っ!」
「だから、黙れっつってんのが分かんねぇのかアァ?」
「さっきから、鬱陶しい喋り方しやがって」
「す…すいませ…!?」
謝ったと同時に、花太郎は近くの壁へと軽く投げつけられてしまった。
拳を鳴らして、近づいてくる男達が恐い。
恐怖で体が震える。
「っ!」
「黙れるように、少し痛い目でも見るか?」
「そりゃいい。こいつが痛め付けられた姿見たら、あの化け物も大人しくなるんじゃないか?」
「いいね。やっちまうか?」
「ギャー!!あのっ、黙りますから!もう喋りませんからっ!!」
暴力は痛いし、怖いし、嫌い。
だがそれよりも、自分が怪我をしてしまったら目の前の男達の命が無くなる、ということに花太郎は慌てた。
「更紗さんがキレて、見境いなくなってしまったら、さすがにっまずくないですか…?」
「それは…」
「どうするよ」
「さすがにヤベェんじゃねぇか…?」
苦し紛れに訴えかけた言葉は、意外と聞き入れられたようだった。
悩み始めた男たちを見ながら、花太郎はほっと安堵の溜息を吐いた。
(これで少し時間が稼げました…)
穏便に解放してもらうのはどう見ても無理な様子なので、今自分に出来る最善の行動は、彼が来るまで怪我をしないことである。
だがしかし、怖いものは怖いのである。
何せ、十一番隊には四番隊だからという理由だけで、理不尽に苛められることは多々あった。
小柄で見るからに気弱そうな花太郎は尚更に。
(更紗さん早く来てくれないかな…)
いい加減、自分の身が心配になってきた花太郎がそう思った瞬間だった。
熱風と共に、彼らのすぐ隣の空間が一瞬にして掻き消えた。
遥か先まで見渡せる程、綺麗に無くなってしまった。
こんな芸当を、この状況下で行ってしまえる人物は一人しか心当たりがない。
自分を取り囲んでいた男達は、完全に腰を抜かしてしまったようだ。
それもそうだろう。
人質がいれば攻撃されないと、高を括っていたのに、躊躇いなく攻撃されたのだ。
遠くが見渡せるようになった先に、人影が見える。
その人影は認識する前に、消えた。
そして――
「花太、無事?」
すぐ目の前に彼の人物は立っていた。
その瞬間、彼の表情を見た瞬間に、花太郎は悟った。
彼らの命は、風前の灯火ですら無かったと。
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