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所変わって、瀞霊廷内黒陵門付近、十一番隊の隊員に担がれながら移動している山田花太郎は、悩んでいた。
強面の男たちに誘拐されたことに怯えながらも、彼は悩んでいた。
如何に穏便に自分を解放して貰えるか、と。
このままでは殺されてしまう。
――彼らが。
「あの…っ」
「ああぁん?」
「ひぃっ!!えっと、そのっ、」
「言いたいことがあるならハッキリ言えやコラァ!」
「ややややっぱり、止めた方がっ、こんなことしたら更紗さん怒ります、よっ?」
「テメェは、馬鹿か?そのための、人質に決まってんだろ!」
「俺らもあんな化け物と正面切って戦う訳ねぇだろうが」
「テメェがいる限り、あいつは攻撃できねぇだろうからな」
「ですからっ!」
「あぁもう!さっきからギャアギャアうるせぇんだよ!テメェはっ!」
「人質なら人質らしくおとなしく震えてろってんだっ」
「そうそう。お助けーってな」
「「「ギャハハハ!!」」」
己の勝利を疑わずに、高らかに笑う男たちを見て花太郎はいよいよ焦り出した。
(どどどどうしようっ…!?)
何言っても聞いてくれそうにないし、何より怖い。
(僕を人質にしたって、更紗さんに勝てる訳ないのに…)
目の前の男達は、自分がいたら彼が攻撃出来ないと、思っているようだが、それは間違いだと教えてあげたい。
自分の身の心配は、臆病な性格なので全くとは言えないが、それほどしていなかった。
それ程時間は経てずに、更紗が助けに来てくれるという自信はあった。
花太郎は理解している。
更紗にとって自分は大切な人であるということを、自分を守るためならどんなことでも彼はするということを。
何もこれが初めてな訳ではない。
だから余計に、今の状況は相手によろしくなかった。
穏やかな性格を自覚している花太郎は、諍いが苦手であった。
たとえ相手が十一番隊の、自分達を嫌っている部隊の人間であろうと、傷つけられるところを見るのは嫌だった。
だからこそ穏便に解決して、無事な姿を更紗に見せ、この事件を終わらせる必要があるということを理解していた。
怪我を負わされた訳ではないから、今ならまだ間に合う段階である。
自分たちが如何にか細い糸の上に立っているということを、彼らは分かっていないのだ。
自分たちの少しの行動次第で、生きるか死ぬか決まるというのに―――
「どうする?」
「まず土下座だろ。土下座!」
「あの小奇麗な顔踏みつけてやりてぇ!」
「てか、あんだけ綺麗な顔だったら男でもいけそうだな」
「じゃあ、廻しちまうか?ギャハハ」
まずい。まずすぎる。
下世話な話で盛り上がる、彼らを見て花太郎は自分の血の気が下がっていくのが分かった。
(な、何て恐れ多いことを…!?)
誘拐犯達は、あれだけの力を見せつけられておきながら、あの人の恐ろしさを全く分かっていないようだ。
彼らは迷いなく、わざとではないかと疑いたくなるほど的確に、死という終わりへと繋がる選択肢を選んでいく。
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