「そういえば更紗ちゃん最近どうしたの?やけに君の噂を聞くようになったよ?」
「え、そうなのか?」
ふと思い出したように言う春水に、さすが耳敏いと思った。
ふらふらとしているこいつの下には自然と情報が集まる。
いや、情報を集めるためにふらふらしているのか。
逆に十四郎はどうやら知らなかったようで、さすがにそこまでは蔓延してないんだなと安心した。
俺と同じで噂話にはとんと疎い十四郎が知っていたら、それこそせいれいてい中が知っているということになるだろうから。
いや、今まさにその十四郎へと情報が渡ってしまったのだが。
「更紗何をしたんだ?」
「久々に食堂行ったらやらかした」
どうせ春水は知っているだろうけれど、一応簡略的に伝える。
「聞いたよ。十一番隊に喧嘩売ったんだって?」
「売られたの間違いだっつーの」
案の定既知の情報だったようだが、その言葉には訂正をいれたい。
喧嘩を売るなんてそんな面倒臭いことを俺がやると思うか?
「話を聞いた限りじゃあ、あれは売ったようなものじゃないかなぁ・・・」
「あぁ?」
「はいはい。売られたんでしょ」
「なるほど。だから更木と決闘していたのか」
納得したようなその声に、俺も思い出したことがあった。
「あ、そういえばお前あの時も俺の許可無しにふらつき回ってただろ」
決闘前に俺が気付いた見過ごせない気配とはこいつのことだ。
あの数日前、体調が良くなかったこいつに外出禁止を言い渡したのは記憶に新しい。
「いやぁ、面白いものが見れるって言われてな」
「誰に?」
「享楽」
おい。
殴ろうと思って春水の方を向いたら、予想していたのかもうすでに俺から距離をとっていた。
勝ち誇った顔がムカついたので、とりあえず手近にあったものを投げつけて、沈めておいた。
ふっ、甘いな。
「お前なぁ。治す気あんの?」
「勿論だ」
「だったら少しは俺の言うこと守れよ」
「これでも守っているつもりなんだがな」
どの口がそれを言う・・・!?
「どこが?え、どこがだよ?言ってみろ」
「いや・・・言ったら更紗は怒るだろうからなぁ」
「おい。今の今まで俺が怒ってないと思ってたのか」
「それもそうだな」
朗らかに納得する言葉に、怒りよりも呆れがきてしまった。
穏やかというか、呑気というか、我が道を行くと言うか・・・
とりあえず誰かこいつのこの性格をどうにかしてくれっ。
一層のこと、自分で性格矯正薬か何か発明した方が早いかもしれない。
「んで、なんだよ」
「いや、更紗は他人に冷たいから、他人の場合は何やっても無視するだろう?」
それが何の関係があるのかと思いながらも頷きで返した。
当たり前だ。
何で俺がどうでもいい赤の他人の心配をしてやらないといけねぇんだ。
そいつが死にたいと思ってんなら勝手に死ねばいい。
それが今のこの話になんの関係があるんだ?
「で?」
「でも更紗は身内というか、気に入った相手に、かな?そういう相手には甘いから、更紗が本当に駄目だと思ったことは、それこそ気絶させてでも止めるだろう?だから、注意だけの時はそれほど危険度は低くないと思――」
「黙れ」
最後まで言われると癪なので、置いてあった茶菓子を口の中に突っ込んでやった。
・・・何だよそれ。
遠回しに自分は俺のお気に入りだ、って言ってるようなもんじゃねぇか。
間違っちゃいないのが腹立つ。
「だから確信犯は嫌いなんだよ」
「知ってる」
「気絶させてやろうか?」
「それは遠慮したいな」
「ちょっと、僕を置いて盛り上がらないでよ、寂しいじゃない」
「てめぇはそこで死んでろ」
あぁもうこいつら苦手!
何となく癪に障ったので、とりあえず春水を殴ろうかと思ったとき、バタバタと誰かが走る音が聞こえた。
それは迷うそぶりもなく、この庵へと近付いてきていて、間もなく戸の前で立ち止まった。
「?」
何だ、と三人で顔を見合わせたが、検討もつかない。
悪い知らせなのは間違いない。
とりあえずここの主である浮竹が入室許可を出した。
「診察中に失礼いたしますっ!至急四番隊藤城更紗隊員にお伝えしたいことが」
「俺?」
どうやら俺に用があったらしい。
そして、何となく内容に予想がついた。
ついたが、奴らだってそこまで短絡的ではないだろう・・・と思いたい。
「何?」
「四番隊で雑用任務中の十一番隊隊員数名が山田花太郎隊員を人質に現在逃走中とのことですっ!」
そこまで短絡的だったようだ。
むしろ単細胞。
「ぶっ殺す」
【今日の業務報告】
○終了
十一番隊雑用指導。
十三番隊舎捜索。
患者捕獲、後定期検診。
○未了
十一番隊制裁及び殲滅。
(2012.02.12)
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